とりで通信

第139号 「2大CKDについて日本腎臓学会で発表予定です」


椎貝達夫

明けましておめでとうございます。

 日本腎臓学会で発表するには、学会が開かれる6月より半年前に発表用抄録をメールで投稿しなくてはなりません。

今年の締め切りは1月6日でした。

今年、久し振りに一題の抄録を提出できました。

クリニック開設が2009年12月でしたから、ようやく6年経って良い(と思われる)発表ができます。

1月中に演題選定が行われますが、そこを通過することには自信を持っています。

 抄録のあらましは、以下のようです。

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【演題】糖尿病性腎症(DN)、慢性糸球体腎炎(CGN)の3年間の観察で見えてくる、CKD進行と尿蛋白の関係

【目的】DN、CGNの同一症例を3年間観察し、CKD進行と尿蛋白排泄量(UPE)との関係をみた。

【方法】同一のDN40例、CGN122例を3年間、4者療法(家庭血圧測定、24時間蓄尿、薬物療法、集学療法)下に観察した。

進行は3年間でeGFRが前値の5%以上低下した場合、停止は3年間で5%未満の場合とした。

【結果】DN進行例30例中UPE<1g/日が6例、UPE1~2g/日が6例、UPE>2g/日が18例であった。同DN停止例10例中UPE<1g/日が5例、UPE1~2g/日が3例、UPE>2g/日が2例であった。

CGN進行例85例中UPE<1g/日が27例、同1~2g/日が23例、同>2g/日が35例であった。

CGN停止例37例中UPE<1g/日が21例、同1~2g/日が12例、UPE>2g/日が4例であった。

DNではUPE1g/日をカットオフ値(CO値)とすると、オッズ比(OR)4(95%CI 0.87~18.45)、同2gをCO値とすると、OR6(95%CI1.08~33.28)であった。

CGNではUPE1g/日をCO値とすると、OR2.82(95%CI1.27~6.24)、同UPE2gをCO値とすると、OR5.78(95%CI1.88~17.77)であった。

DNではUPE>2g/日は腎機能低下と関係した。

CGNではUPE>1g/日、およびUPE>2g/日は腎機能低下と関係した。

【結論】原疾患により腎機能低下に関係するUPEが異なる可能性が示された。

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DN(糖尿病腎症)、CGN(慢性糸球体腎炎)はそれぞれ透析原因の1、2位を占める代表的なCKD(慢性腎臓病)です。

2大CKDを少なくとも3年間観察した結果ですから、6年後にようやく発表できるに至ったのはおわかりいただけると思います。

 抄録でもっとも強調したいことは、2つのCKD、DNとCGNでは蛋白尿の進行への影響が異なるのではないか、です。

DNでは尿蛋白2g/日以上が進行に影響しますが、CGNでは1g/日以上で影響します。

同じCKDでも、元の病気により蛋白尿の影響のし方が異なる可能性があるのです。

CKDでは、一般に「蛋白尿を1g/日以下に治療した方が良い」とされてきました。

しかし実際に患者さんを毎月観察していると、つねに蛋白尿2g/日以上の人でも進行に影響しないことがよくみられます。

「DNまたはCGNという元の病気により、治療目標が異なる」と考えれば、このあたりはかなりスッキリします。

 同一症例をずっと観察していくのですから、出発時点の対象数よりどうしても減ってしまいます。

DN40例、CGN122例は3年間脱落したり透析などに入らず、残った症例です。また「4者療法」を続けるのに、かなりの努力をしました。

「4者療法」のなかで家庭血圧測定、家庭での月1回の24時間蓄尿が患者さんの手に委ねられます。

ほとんどの諸外国で、この2つは医療者側が計画しても患者さんが実行しないとのことです。

日本の患者さんのまじめさ、律儀さがあってはじめてできた試験です。

続けられたのは熱心に通院された質の高い患者さんがそれだけ居られたということで、参加いた

だいた皆様に深く感謝申しあげます。

 このあと沢山の変数(検査項目、投薬内容)の解析を行います。

そのような「サブ解析」を加えてはじめて学会発表の形式が整えられ、6月の発表になり、その後

論文化の作業に入り、論文投稿に至ります。

  ところで今回まとめてみて強く印象に残ったのは、尿蛋白1g/日以下でも進行してしまう例が多

数あることです。

 その1例を図1に示します。

       図1

 現在77歳のCGNの男性です。

尿蛋白は多くても最大値2.98g/日ですが、大部分は1g/日前後です。

2010年来院時eGFR32ml/min/1.73㎡だったのが、3年後にはeGFR17.9に低下しています。

進行速度(△eGFR/min/1.73㎡/月)はー0.36で、1年間で4mleGFRが低下しており、2016年7月

には透析レベルの6ml/min/1.73㎡に達すると予測されます。

 -0.10 ml/min/1.73㎡/月よりも速い進行が、DNの9例(23%)、CGNの27例(22%)でみられました。

 図2にCKD進行因子を示します。

この因子の大部分は4者療法を行えば治療されます。

尿蛋白1g/日前後でも進行するとなると、これからは「あなたの尿蛋白は少ないので進行しそうもな

く、安心できます」とは言えなくなります。

       図2.腎臓病を進行させる19の因子(2015年4月改訂)

 この尿蛋白1g/日前後で進行する原因は何でしょうか。

1つの可能性は「慢性感染」です。

結核、歯周病、寄生虫症などが候補にあげられますが、この尿蛋白1g/日前後で進行している患

者さんの一部に問診した範囲では、これらを思わせる訴えや検査所見はありませんでした。

問診からこれらが疑われる人では、このような想定される感染について検査を行う予定です。

 現に進行している人では、どんな対策が考えられるでしょうか。

eGFR<=15 ml/min/1.73㎡の人に勧めている「瞑想」を実行してもらうことがまず考えられます。

「瞑想」をeGFR15 ml/min/1.73㎡以上の人で実行してもらったことはほとんどありませんが、今ま

での何人かで有効と思われました。

 現在治験を進めているクレメジンでない、新しい球形吸着炭製剤の服用も有効かもしれませ

ん。

また「腎硬化症」はつねに尿蛋白0.2g/日以下の例で、このグループは何年経過しても進行しません。

尿蛋白<1g/日の進行例のなかには尿蛋白0.5g/日前後の例もあります。

このような例を尿蛋白0.2g/日以下にすることは、そう難しくないでしょう。とにかくかなり頻度が高

い、この進行例への対策が必要です。

 以上をまとめると表1となります。

       表1.尿表1.尿蛋白<1g/日の進行例への対策

 今回の調査はかなりの時間・手間を必要としました。

DN40例、CGN122例のうちの進行例それぞれ30例、85例について、図1のようなグラフを1例ず

つ3年間にわたって作成しました。

これをまとめてくれたスタッフに感謝します。

 このような努力の積み重ねで、CKD進行の実態が少しずつですが解き明かされ、それに伴い治療法も進歩してゆきます。

 CKD保存療法が末期腎不全治療(透析か腎移植)よりも大きな位置を占める日は近づいています。