とりで通信

第137号 慢性腎臓病(CKD)のクスリ


椎貝 達夫

1.CKDは複合病のため、どうしても処方数が多くなります

 CKDは図1に示すように、いくつもの病気が合わさっています。

59歳男性、糖尿病腎症、eGFR5.2ml/min/1.73㎥の人の処方は表1のようになります。

「複合病」のため、処方される薬の種類は10種類となります。

もちろん減らすため努力はつねにしていますが、なかなか減りません。

 

[図1、表1]

2.薬については、さまざまな誤解があります

1)薬を多く処方すると医療機関はもうかる?

-7剤以上のペナルティーはやめるべき-

現在71.8%の医療機関は「院外処方」です。

椎貝クリニックもすべて院外処方です。

薬を処方すると、処方料680円が入りますが、それだけです。

薬を多く処方しても額は変わりません。

「院内処方」とすれば、仕入れた薬の費用と公定価格の「差益」がもしあれば、医療機関のもうけになります。

「薬漬け医療」をなくすためと称する、7剤以上を処方すると院外で680円が400円に減り、院内で420円が290円と、医療機関の取り分は少なくなります。

 はじめに述べたように、慢性腎臓病(CKD)は幾つもの病態が合わさったものですから、いくら処方箋を減らそうと思ってもある限度があります。

この「7剤以上のペナルティー」は医師にCKD保存療法をやる気をなくさせるひとつの原因です。

当院を始めて6年目に入り、経営状態はまあまあです。

このような成功事例をみて、ふつうは後続の若手医師が名のりをあげるのですが、その気配はありません。

やる気をなくさせる理由はほかにもいろいろありますが、まずこのペナルティーはやめてもらいたいものです。

2)薬を多く処方すると、薬の複合的な副作用もあり、副作用が怖い?

 「AとBという薬が相互作用として副作用をひきおこす」ことは、ある薬の組合せで起こりますが、それほど多くはありません。

薬の副作用はあるひとつの薬で生じますが、複合しての副作用はむしろまれなのです。

表1のようにCKDが進行すると10剤以上の処方となりますが、種類が多くなってもそれほど副作用は増えません。

例えば、10剤以上処方されている100人の患者さんで副作用の発症率は2%程度です。

3)CKDの患者さんの処方は一般の内科医は行うべきではない?

 遠方の患者さんから電話で「38℃の発熱とのどの痛みがあるが、近くの内科を受診してもCKDだというと薬を処方してもらえない」とのことです。

遠方の方が薬を貰いにいちいち当院を受診されるのは、大変お気の毒です。

この症状でのめないのは、非ステロイド系消炎薬(NSAID)で、抗菌薬は腎機能(eGFR)に合わせて減量すれば良いのです。

例えばeGFRが10ml/min/1.73㎥なら、クラビット(レボフロキサシン)の常用量が250mgだから、その約10分の1の25mgを処方します。

クラリス(クラリスロマイシン)なら常用量は400mgだから、その10分の1の40mgとなります。これらの抗菌薬には錠剤とともに顆粒製剤があり、顆粒ですと調整が容易にできます。

上記の「NSAIDはダメ、抗菌薬は腎機能に応じて」という簡単なルールはすべての医師のみならず、患者さんもわきまえて欲しいものです。

3.後発薬(ジェネリック)の問題

ある患者に、市役所と保健組合から電話があり、「主治医にジェネリックに変えるよう伝えて下さい」とのことです。

厚労省は医療費削減を閣議などで迫られており、市町村や健保組合はジェネリックに変えてもらうよう、強く要請されています。

そこで患者さん個人に電話が行くのです。

ジェネリックをめぐってはいろいろな疑問点があります。

「処方権」は医師にあります。長い難しい修業を経て得られた医師の特権です。

その特権を「安いから、国が助かるから」と冒してよいのでしょうか。

あまりの攻勢に主治医は「変えていいですよ」と言ってしまいます。

しかし心のなかでは「本当に大丈夫なのか」と心配しているのです。

TVのコマーシャルで「ジェネリックは効き目が同じで、価格が安い」といっていますが、「効き目が同じ」というところを心配しているのです。

本当に効き目が同じかはジェネリックメーカーが示す、少ない症例の調査だけではわかりません。

また医師が先発薬のメーカーから先発薬を使うよう要請されることはまったくありません。

それこそ「患者さんのためを思って」、ジェネリックの使用をためらっているのです。

超売れ筋の薬ですと、10〜30種類ものジェネリックがあります。

こんなに後発薬メーカーが群がるのは一体なぜなのでしょうか。

とにかくジェネリックがあまりにおおすぎて、医師は名前を覚えきれません。

「今日の治療薬」などの薬の解説書をいつも手元に置いておかないと診療ができなくなっています。

あまりにも種類が増えたジェネリックに医療機関は悲鳴をあげています。

またジェネリック使用が医療費削減に有効かどうかはわかっていません。

日本経済新聞5月24日号によると、ジェネリックが医療費を抑えるという証拠は十分にあるわけではありません。

日本医師会総合政策研究機構(日医総研)は、ジェネリックを使うと具体的に医療費がいくら減るのかの根拠となる資料を、厚労省に求めています。

さらにジェネリック使用をあまり推奨すると、先発薬メーカーの開発意欲がなくなります。

メーカーの競争力がなくなり、あわてて先発薬メーカーを優遇しても、もう遅いのです。

日本の高い創薬力は国力です。保護しなくてはなりません。

ジェネリックはおそらくあまりにも多数が販売され医療ミスが生じています。

制度は複雑になればなるほどミスが生じやすくなります。

そのミスが生じた責任は、すべて処方した医師にあるのでしょうか。

ジェネリックをめぐってはいくらでも疑問が出てきます。

大体医療費を削減したいのなら、ほかに確実で有効な手段がいくらもあります。

その最たるものはいつも言っている「CKD保存療法の普及策」です。

CKD保存療法は、取手通信135号に述べたように糖尿病腎症の29%が透析をまぬがれるかもしれないレベルに達しています。

もしこの療法が普及すれば透析に入る患者さんは減りはじめ、数年以内に何千億円という医療費が減るでしょう。

また新たにIgA腎症が難病指定を受けました。

そのことは歓迎すべきですが、その指定取得の書類をみると、沢山の検査項目があります。

誰が決めたのか知りませんが、決めた人には「費用対効果」の考えはまったくないようです。

この書類のためにまたまた医療費が増えます。

また飲まなかった薬を捨てるわけにもいかず、たんす一段分、あるいは二段分もある家庭はいくらもあります。

この「残薬の問題」にメスを入れる気持ちは厚労省にはないのでしょうか。

さらにいろいろな専門分野のエキスパートに訊けば、十指にのぼる「医療費のムダ」がたちどころに見つかるでしょう。

医療費削減=ジェネリックの普及だけでは、あまりにも硬直化した施策と言わざるをえません。

4.『新薬の罠(わな)』を読む

 最近、上記の本が出版されました。著者は鳥集徹(とりだまり とおる)というサイエンス・ライターです。

本の帯に「巨額のカネが医師に流れ込む!」「日本最大のタブーとされてきた製薬会社、厚労省、大学病院の癒着を暴く!」とかなりオドロオドロしいうたい文句が並べられており、はじめインチキ本かと思いましたが、大変まじめに三者の癒着の問題に取り組んだ本でした。

 本を開くと、「カネで動いた子宮頸がんワクチン」「カネで売られる診療ガイドライン」「病気をつくる疾患啓発広告」「製薬会社のカネに依存する医学会」と相変わらずドギツイ(品がない)見出しがならびます。

しかし内容を読むとそれぞれの章が納得できるもので、まじめな取材にもとづいています。

子宮頸がんワクチンでは、このワクチンの承認に続き、ワクチンの公費助成の申し入れが行われ、たった2年間で承認、公費助成を達成しています。

これらの活動には、当然ながら資金が必要です。

ずっと委員をつとめた有力教授に多額の資金提供が行われ、「ワクチンの副反応」を過小評価したのではないかと筆者は述べています。

コレステロールを下げるスタチン(クレストール、リピトール、メバロチン等)は徳光和夫氏を起用して「コレステロールを下げましょう」のキャンペーンを展開しました。

日本では、テレビCMで消費者に直接薬の名を宣伝することはできません。

消費者に直接薬の名を伝えられるのは、米国とニュージーランドだけです。

薬の名をあげないので、コレステロールを下げることの大切さのみ伝わり、私はCMとしては「上品な」方だとおもうのですが、筆者は「製薬会社が善意でCMをながしているわけがない」とまったく評価しません。

 ある米国の権威は「今や薬に合わせて都合よく病気を作りだしている」とその著書で述べています。

ディオバン(ノバルティス社)、アリセプト(エーザイ)、ブロプレス(武田薬品)などは、大学に多額の「奨学寄附金」を支払い、その引きかえにデータをねじ曲げたのではないかとの疑惑が持たれています。

また製薬メーカーも不利な結果は公表せず、有利なデータのみを公表するといった、いわゆる「出版バイアス」も横行しているようです。

 この本は医学界に渦巻く癒着の構造を明らかにした良書と思います。

ただ、著者の焦りがあるのか、はじめに述べたように、ドギツイうたい文句で読者に「本当なの?」と警戒感を持たせてしまうのが、残念な点です。

また疾患ごとに発表されているガイドラインも攻撃されていますが、ガイドラインは医学的証拠にもとづいた立派なものが多く、ある薬が売れるよう目標値をねじ曲げたものは、ほとんどないと思います。
 今年の4月1日の朝日新聞に「医師に謝礼1000万円超184人」が載りました。

ほとんどが講演謝礼で、最高はある特任教授の年額4700万円でした。

これほど医師周辺には、巨額の金が動いている証拠のひとつです。

5.「利益相反」は正しく行われているか?

 「利益相反」とは、わかりやすく言うと「研究者(医師)と製薬メーカーの利害関係の衝突を明示・公開しなければならない」ということです。

たとえばある研究者が製薬メーカーからいろいろな形で金銭を受けとった場合、それを公開しなければなりません。

医学論文にはCOI(conflict of interest コンフリクト・オブ・インタラスト)の項が設けられ、論文の著者の一人一人がどこの製薬メーカーからいくら貰ったか、謝礼・寄付金を公開しなければなりません。

米国で2014年に「サンシャイン法」が制定され、製薬メーカーや医療機器メーカーから医師や研究施設に提供された金品を公開すべき、と決まりました。

これを受けて日本でもCOIの公開が始まっています。

米国では公的保健メディケア・メディケィドのインターネットサイトで医師・医師教育病院に支払われた金品を「容易に」見ることができます。

日本もその流れを受け、医療者側への資金提供をサイトで見ることができるようになりました。

しかし鳥集氏によると、なかなか個人への資金にまで到達することはできず、また米国では当たり前となっているダウンロードや印刷ができません。

これでは「資金の透明化」には程遠い状態です。

  さて私のことを述べると、今年で臨床医生活50年となり、その間製薬メーカーからいろいろな援助を受けてきました。

原稿を書いているとボールペンにもある会社の製品名が入っています。

教授職の道を蹴って臨床医の道を貫いてきましたから、多額の寄付を受けたことはありません。

ずっとメーカーが提供するグッズに囲まれ、囲まれていることに何の違和感も持たないで来てしまいました。

言いわけとしては、患者さんのためを思ってスポンサーが寄りつかない臨床研究「CKD保存療法」を41年間わき目も振らず続けてきたことでしょうか。

利益相反を公表すると、一回五-七万円で製薬メーカー何社かで研究成果を発表し、その総額は年に30万円程度です。

比較的クリーンに過ごしてきたとはいえ、この本を前にすると心に応えるものがあります。

6.おわりに

 以上、薬をめぐるさまざまな問題を述べました。

読まれた方はいろいろな感想を持たれたと思います。

私は薬を処方する側で、処方された薬をのまなければならない患者さんとは受け止め方がちがうと思います。

この論文には「一人よがり」の面があるかもしれません。

ぜひご意見をお寄せ下さい。

私が答えられる点はお答えし、私に答えられないことがあれば適当な人を探し、お答えいたします。