とりで通信

第136号 血液の「酸性化」を防ぐ


椎貝クリニック   椎貝 達夫

  血液の「酸性化」を防ぐ
 腎機能低下が進むと、体のなかに酸が貯まってきます。「揮発性の酸」は呼気からCO2として排出できますが、「不揮発性の酸(リン酸、硫酸)」は腎臓から排泄するしかありません。

 腎機能(eGFR)と血清重炭酸(HCO3)の関係をみると、図1のように早い人ではeGFR30以下になると、HCO3は22mEq/ℓとなり、eGFR20以下では多数例がHCO3 22mEq/ℓ以下となります。

アシドーシス(酸血症)とは、「HCO3 22mEq/ℓ未満」の場合です。アシドーシスは腎臓病の進行を促すので、血清HCO3 22未満が見つかったら、なるべく早く治療します。

1.アシドーシスの治療

1)重曹により中和する

 アシドーシスの治療の第一は試験管の中と同じく、血液をアルカリにする重曹錠(1錠500mg、最大投与量5000mg)の服用で、酸を中和します。

 なお尿酸はやはり腎機能低下により、体に貯ってきますが、尿酸の生成を抑える薬(ザイロリック、フェブリク)、尿酸の腎臓からの排泄を促す薬(ユリノーム)があり、酸に関しては薬の開発が遅れています。

 重曹は50年も前からアルカリ剤として処方されてきました。重曹で胸灼けがする、げっぷが出る、などはしばしばみられます。また重曹には散剤もありますが、散剤はのみにくく、クリニックではほとんどの患者さんに多少のみ易い錠剤の方を処方しています。なお重曹の投与量が多くなるほど、胸灼け、げっぷも多くなるようです。

 図1にみられるように、eGFRが40以下になると血清HCO3は22mEq/ℓ以下に低下する例が多くなります。

 つまりCKDステージ4に入れば重曹が必要な患者さんが増え、ステージ5ではほとんどの人が必要となります。

 今ステージ5の患者さんが550人は通っていますから、ステージ4の人を加え、600人以上の方に重曹が処方されています。

 重曹は化学式がNaHCO3でナトリウム(Na)を含みます。このNaは、食塩(NaCl)制限に悪影響しないのでしょか?いろいろな研究からNaHCO3はNaClのように高血圧や浮腫には関係しないと考えられています。

 ただし蓄尿をするとその尿中に重曹のNaも含まれるので、重曹1gについて0.7gだけ尿中食塩排泄量を減らす必要があります。

2)新しい試み-リン結合剤による血清HCO3の改善

 重曹錠はのみにくく、しかも最大投与量の5000mgでもまだ十分でなく、さらに2000g~3000gものんでもらわなければならないこともあります。重曹一本槍の治療を何とか変えられないかと思い、考えついたのがリン結合薬の投与です。

 体への酸(リン酸、硫酸)の貯留がアシドーシスを起こしているのなら、リン結合薬で体の酸貯留を減らす試みは、血清HCO3を増やし、アシドーシスを改善させるかもしれません。

 ホスレノール(炭酸ランタン)は食物中のリン酸と結合、リン酸ランタンが作られ大便に排泄されます。ホスレノールを投与すると、尿中リン排泄が減少し、リン酸が結合されたのがわかります(図2a)

 この時血清HCO3は著明に改善(上昇)します(図2b)。もちろん重曹の投与量は変えていません。このように今迄のアルカリ剤だけによるアシドーシス治療をリン結合薬は変え、クリニック発の新しい治療法になると思われます。

 ホスレノールは250mg錠の薬価が194円もする高価な薬ですが、アルカリ剤としては重曹だけしかなくて困っていた状況を変えるものになりそうです。

3)酸を生成する食品を少なくします。

a.植物性蛋白を多く摂る

 植物性蛋白を摂ると酸の産生が少なくなり、重曹をのむ量を少なくできます。

 「豆腐」はすぐれた植物性蛋白食品です。豆腐は加工の段階でカリウム含量が減っているので、ほかの大豆食品(納豆、煮豆)のように高カリウム血症になる心配は少ないのです(図3)

b.動物性蛋白では「貝」が勧められる

 動物性蛋白は酸(リン酸、硫酸)を産生します。したがって腎機能が低下した人ではあまり摂らない方がいいのですが、一歩外へ出れば肉や魚が溢れており、「肉や魚も少しは食べたい」と思うのも尤もです。精進料理はもっとも厳しいものでは肉、魚、卵を断ちます。それでも禅宗のお坊さんが健康で過ごせるのは、コメの蛋白のアミノ酸には、必須アミノ酸がすべて含まれているためです。必須アミノ酸は8種類あり、これらが一定の比率で食品中に含まれることが大切です。

 動物性蛋白では硫酸イオンを含むアミノ酸(含硫アミノ酸-メチオニン、シスチン)が少ない「貝類」を摂って下さい。

 図4のように含硫アミノ酸は貝類に少ないのですが、カキは内臓部分が大きく、リンが多いので内臓部分を削って下さい。それ以外では価格の点からアサリ、シジミがお勧めの貝類です。なおホタテ貝の貝柱は含硫アミノ酸が多く、勧められません。

図3 豆製品のカリウム含有

              豆腐はカリウム含量が少ない

図4 各種動物性食品の含有アミノ酸

                   貝類の含有アミノ酸は魚や肉の3分の1程度