とりで通信

第135号 保存療法を徹底すれば、透析導入を少なくとも20%減らせる。


椎貝クリニック 椎貝達夫

1. なぜ慢性腎臓病保存療法を始めるに至ったか

 1967年に透析療法に健康保険が適用されました。1960年頃透析療法が始められてからの数年間は家屋敷を売って透析療法の費用に充てるということが全国で行われていましたから、保険適用は患者にとって大きな朗報でした。また医師にとっても朗報ととられ、「透析療法は儲かる」と内科でない他の診療科から転向する医師が相次ぎました。

 私の患者からも透析療法に移行する人が出てきました。患者の感想を聞くと、「大変な治療法ですね。終わったあともだるさが残ります」「終わるたびにやっと終わったとホッとする。しかし1日置いて次の透析療法が始まる」と、保険が適用されても透析療法のある生活の大変さを訴える声が大部分でした。当時慢性腎臓病の患者を救う、「夢の治療」と評判でしたが、私には「本当にそうだろうか」の想いが残りました。

 透析療法が大々的に始められ、日本透析医学会は会員が1万6千人を越え、隆盛を極めています。

 同学会は透析療法に大きな進歩をもたらしたと、自負しています。しかし患者側からみると、透析療法から受ける印象は47年前とほとんど変わっていません。透析療法を開始するには16ゲージの針を前腕皮膚に穿刺しなければなりません。その時の痛みを和らげる方法として、局所麻酔薬の入ったテープを貼る方法があり、これは多くの施設に採用されているので実用性の高い方法のようです。しかしそれ以外に患者の苦痛を和らげ、負担を減らす治療法は生まれていません。

  シリコンチューブを介して透析器に4時間余り固定され、終わったあとでもすぐに立ち上がれないだるさが残ります。透析療法のあった日はほかのことは何もできないといいます。透析療法を始める時の穿刺の痛みは人によって多少の違いはありますが、16ゲージの針ですから、痛みはかなりあるのが普通です。通常これが週3回くり返されます。また日常の水の制限もかなりきつく、「ビールで乾杯」などは夢のまた夢となってしまいます。透析室で出すお茶は「なるべく熱くしてほしい」という要望があります。ぬるいお茶ではすぐに飲んでしまい、お茶を飲む楽しみがなくなるからです。血液透析の場合、尿量は次第に減少します。2年以内に1日500ml以内となり、自分の腎機能が廃絶したことを知ります。日本の透析療法患者の1年生存率は87.6%と他の国よりずっと良い成績です。他国の成績より良いのですが、それでも一般の人に比べてかなり短くなります。隣のベッドで透析療法を受けていた親しい患者が急に亡くなり、ある日を境に会えなくなるなどの日常体験は、どうしても暗い考えを招いてしまいます。うつは透析療法を受けている患者のほとんどにみられるといいます。

 フランスの透析療法患者の死因の第1位は透析拒否による「自死」です。オーストラリア・ニュージーランドでも上位を占めています。日本では「自死」は透析療法患者の死因の上位ではありませんが、これは自己主張の強くない国民性によるもので、実際には「透析療法拒否」を希望している患者は多いようです。
 腎臓移植は透析療法の制約のほとんどから解放される、良い治療手段ですが、わが国の生体腎移植、献腎移植を合わせた腎移植数は年間180件程度で増加する方向にありません(図1)。31万人の透析療法患者に対し、180件の移植数では、腎臓移植を受けられるチャンスはきわめて低く、受けられる確率は0に近いといわざるを得ません。「腎代替療法」として透析療法以外に腎移植があると云いますが、諸外国とは事情はまったく違うのです。

                                                                         図-1
 
 このような情況から、私は透析療法のない生涯を目ざす考え方があっても良いのではないかと考えました。あまり慢性腎臓病が進行しない時期から治療を開始すれば成績は良くなるのではないかとも考えました。このようにして、40年前から私の保存療法は始まりました。「慢性腎臓病になると、かならず透析療法に至る」との考えを、ほとんどの腎臓専門医は持っています。私の経験からも生涯透析を回避することは至難の業ですが、しかし「治療成績」で述べるように、情況は希望を持てるものになってきました。

 ところで最近になり、もう一つ気がかりな問題が生じています。2035年までにとくに日本を含む西太平洋地域の糖尿病患者が急増すると云われています。これは国際糖尿病連合の予測です。国々の国内総生産の延びは目ざましく、過食者が増え、それに伴って2型糖尿病が増加しています。2050年頃には糖尿病性腎症が急増します。欧米や日本は国内総生産が高く、糖尿病性腎症に対して透析療法ができますが、南アジアの国々はそこまで国内総生産が高くないので、透析療法が必要であるのに受けられない人が続出します。日本の1970年代はじめの、金持ちだけしか透析療法を受けられない世界が、アジアの国々に現出するでしょう。保存療法は透析療法の医療費の6分の1程度しかかかりません。アジアの危機を防ぐには、保存療法をさらに発展させ、透析療法を行わず、保存療法で生涯過ごせるようにすべきではないでしょうか。

 また日本の貿易収支も3.11以来赤字が続いています。1000兆円を越える日本の債務も不安材料です。日本の総医療費は約40兆円と巨額で、そのうち透析療法の医療費は1兆6千億~8千億円と云われています。国民はこのままでは「日本の財政はどうなってしまうのか」と不安を抱えながら、何も発言しない政府に一種の安堵感を覚えて過ごしています。1945年(昭和20年)の敗戦時に味わった大インフレーション、新円切り下げ、農地解放というすべて「占領軍のお達し」としたのと同じ「大変更」が用意されているのではないでしょうか。日本には透析療法による「垂れ流し医療」を続けている資格はとうにないのです。日本の腎臓専門医は、慢性腎臓病保存療法をもっと研究し、透析療法に頼らない、低コストの治療をまず日本に普及させ、次に南アジアの国々にも広げる道を探るべきなのです。

2. 慢性腎臓病保存療法を続ける

 透析療法は患者をきわめて気の毒な情況に置く。一生を透析療法なしで過すことは不可能だろうか。またそれはできないとしても、もっと腎臓の寿命を延ばすことはきっとできる筈だ。盲蛇に怖じずといいますか、40年前、私の慢性腎臓病保存療法は曲がりなりにも出発しました。当時の対象となった保存期の患者は20人足らずでした。未だ東京医科歯科大学第二内科在籍中のことです。

 その後1985年に取手協同病院院長となり、22年間勤めました。病院長としてかなり忙しい思いをしましたが、それでも週に5単位(1単位:半日)は外来診療を行いました。外来は専ら保存療法に充てられましたが、「院長に診てもらいたい」とVIPで私の診療を希望する人も多く、そのような人達の診療にもかなりの時間を割きました。

 病院での保存療法は院内の栄養課、看護部、臨床検査技部、薬剤部なども参加する総合医療で、1987年11月から始められました。47人の患者で始め、いまでも一人一人の顔を思いだすことができます。その当時は「チーム医療」という言葉はありませんでしたが、振り返ってみると将に「チーム医療」でした。

 病院長退職後名誉院長として2年間勤め、その後2009年12月に取手駅西口で開業しました。71歳でした。

 図2に示すように、当院に通院する慢性腎臓病患者は5年間にいちじるしく増えました。2014年9月には患者数が1200人に達しました。途中で文藝春秋誌に3回に亘って私の論文を掲載するといったテコ入れをしていただき、これにより患者数は大幅に増えました。図3に示すように患者は全国から来院していますが、関東6県が全体の7割を占めます。また図4に示すように慢性腎臓病 StageでみるとStage 5が45%と多いのが特徴です(図4

 図-2

 図-3

 図-4

3. 当院の治療法

 図5のように「4つの柱」からなる、総合治療です。2010年に今の形になりました。一番上は「血圧コントロール」で、家庭血圧125以下/75以下を目標値としています。125/75は日本高血圧学会が2012年に定めた値ですが、妥当な値と思われます。患者全員が上腕で血圧値を測る血圧計を持ち、朝・夕に血圧を測定し、用意した記入用紙に値を記入してもらいます。診察室血圧に比べ、再現性に優れ、信頼度、精度ともにはるかに優れています。9月末~11月はじめに生じる血圧のわずかな上昇をはっきりととらえます。家庭血圧による血圧コントロール達成はこの治療法の大前提です。

 次に左中程の「食事療法」です。食事療法は患者が自宅で行う来院毎の
図5のように「4つの柱」からなる、総合治療です。2010年に今の形になりました。一番上は「血圧コントロール」で、家庭血圧125以下/75以下を目標値としています。125/75は日本高血圧学会が2012年に定めた値ですが、妥当な値と思われます。患者全員が上腕で血圧値を測る血圧計を持ち、朝・夕に血圧を測定し、用意した記入用紙に値を記入してもらいます。診察室血圧に比べ、再現性に優れ、信頼度、精度ともにはるかに優れています。9月末~11月はじめに生じる血圧のわずかな上昇をはっきりととらえます。家庭血圧による血圧コントロール達成はこの治療法の大前提です。

                 図-5

 次に左中程の「食事療法」です。食事療法は患者が自宅で行う来院毎の24時間蓄尿の結果にもとづいています。蓄尿により、塩分摂取量と蛋白摂取量は正確にわかります。蓄尿を行う施設は少なくなっていますが、私は慢性腎臓病保存療法では欠かすことができない検査だと思っています。いまの管理栄養士による患者への栄養指導は、何の裏づけもなしに行われているようです。これでは患者はいい迷惑です。蓄尿から、リン排泄量も求めることができ、血清リンでみるよりさらに正確にリン制限の程度を知ることもできます。

 蛋白摂取量は0.8g/標準体重kgとしますが、0.7~1.2g/標準体重kgの範囲内にあれば良いとしています。保存療法を始めた最初の20年間は食事療法に力を注ぎましたが、蛋白制限には期待したほどの慢性腎臓病進行抑制効果はなく、世界の中規模あるいは大規模研究でも効果ははっきりしないことから、現在強い蛋白制限は行っていません。

 食塩制限の目標値は7g/日未満と、一般に行われている6g/日未満より1g多いのですが、男で8.07±3.22g、7g未満は41.7%、女で7.15±2.90g、7g未満は52.9%で、食塩制限がうまく行っていない患者がきわめて多いのです。

 食事療法では長期の生命予後からリン制限が重要と思われ、慢性腎臓病Stage 3(糸球体濾過量60mL/min/1.73㎡以下)では血清リン値を3.5mg/dl以下にするよう指導しています。アシドーシスは慢性腎臓病の進行を促します。共同研究者のKandaは当院の患者の成績を元に2篇の論文を発表しています。

 当院では患者にアルカリを産生する植物性蛋白(とうふ)を勧め、硫酸イオンを含まず、酸産生が少ない動物性蛋白として貝類を勧めています。肉・魚・卵といった酸産生食品は一定限度までといった指導もしています。

 右中段の「薬物療法」はきわめて大切なことは云うまでもありませんが、どうしても種類と量が増えてしまうので、常に見直しをし、なるべく少くなるよう心がけています。なにしろ慢性腎臓病は図6に示すように多くの病態が重なってできており、それらに対応する薬の量はどうしても増えてしまうことを、患者に納得してもらう必要があります。

 

 

 

 

図-6

 

 

 

 

図-7

 

 一番下に位置するのは「集学療法」で、血圧をはじめとする多くの進行因子(リスクファクター)を調整します。用意した腎臓病手帳にデータシートから主要な10~14項目を抜き書きし、毎受診毎に、修正を要する項目がないかをチェックします。この時家庭血圧の表も一緒に見ると大いに参考になります(図7)。一般の慢性腎臓病外来ではデータシートにマークをつけて説明する方法がとられているようですが、それだと患者は十分に理解せず、もし修正項目が3項目以上の場合、憶えることもできなくなります。また時には主治医が修正すべきリスクファクターを見落とす可能性もあります。そこでこのような腎臓病手帳に抜き書きする方式が勧められます。

 図5、7に示した当院の保存療法の特色が、後に述べる治療成績に大きく影響していると思います。

4. 治療成績

1)もっとも治療が容易な腎硬化症

 まずもっとも治療が容易な慢性腎臓病として、尿蛋白が0.2g/日以下で糸球体濾過量のみ低下している例があります。特定健診で血清クレアチニン値、性、年齢から糸球体濾過量を測定することが多くなり、糸球体濾過量が低いといわれた患者はすぐに腎臓専門医を受診します。これらの例を何年観察しても糸球体濾過量はほとんどはじめの値のままです。この尿蛋白がほとんどなく、糸球体濾過量のみが低下している例はほとんどすべて「腎硬化症」によると思われます。なお腎硬化症は日本透析医学会の集計では日本の透析原因となる慢性腎臓病の第3位となっています。これは尿蛋白が少な目な慢性腎臓病を腎硬化症に組み入れているためではないかと云われています。腎硬化症のなかに糖尿病性腎症、慢性糸球体腎炎、多発性のう胞腎、間質性腎炎等が含まれていると思われます。
 新しく発見された腎硬化症は少なくとも4年間以上観察しても、進行しません(図8)

 図-8

 尿蛋白が少なく、糸球体濾過量が低下している慢性腎臓病で鑑別を要するのは間質性腎炎、多発性のう胞腎、閉塞性尿路障害です。腎硬化症を疑う場合に腹部エコーは必須の検査です。腎硬化症との鑑別がもっとも難しいのは間質性腎炎です。腎硬化症と思い、治療しているのに糸球体濾過量が低下してゆくのが間質性腎炎です。6ヵ月間観察すると腎硬化症では糸球体濾過量は小幅の変動しか示さないのに、間質性腎炎では糸球体濾過量が直線的に低下するので鑑別できます。

 腎硬化症は慢性腎臓病のなかでもっとも治療が容易です。腎臓の動脈硬化が原因なので、全身の動脈硬化の程度が調べられる眼底検査、頸動脈エコー、腹部エコー、は行っておくべきです。腎硬化症の治療は血圧コントロール、脂質コントロール、食塩制限です。これらにより、間接的に動脈硬化の進行を抑えます。

2)糖尿病性腎症、慢性糸球体腎炎の成績

 透析原因の第1位である糖尿病性腎症の治療成績をみると、当院に3年以上連続して通院した症例45例では、進行が32例71%、停止が10例22%、寛解が3例7%でした。なお進行、停止、寛解の定義は図9に示してあります。3年間で停止+寛解13例29%はかなり良い成績ではないかと思われます。図10に示すように停止・寛解例の糸球体濾過量のグラフはどの例でも安定しており、4年目以降も停止状態あるいは寛解状態が続いてゆくことを予測させます。

 

 

 

 

図-9

 

 

 

 

 

図-10

 

 次に透析原因第2位の慢性糸球体腎炎の成績をみると、3年以上観察できた134例中、進行を示したのは100例(75%)でしたが、27例(20%)は停止、7例(5%)は寛解を示しました。停止・寛解例の糸球体濾過量の折れ線グラフを作図すると図11のようになります。3年を過ぎ、4年目に入った例もかなりありますが、停止・寛解例とも、データは安定しており、さらに時間が経過しても停止または寛解状態が続いてゆくことを予測させます。

図-11

5 .考察

 いま当院に通院している患者は平均70代です。「生涯の透析回避」を為し得たかどうかは、あと20年近く経過をみないと結論が出ません。今回の治療成績から透析療法導入はどの位減らし得ると推定できるでしょうか。糖尿病性腎症、慢性糸球体腎炎の停止・寛解例(図10、11)の3~4年に及ぶ糸球体濾過量のグラフを見ると、今後年数が経ってもどの例も糸球体濾過量が低下することはなさそうに見えます。つまり糖尿病性腎症の29%の例、慢性糸球体腎炎の25%の例は「透析回避」の候補となると思います。今後の長い年月のなかで、糖尿病性腎症では突然の尿蛋白増加で進行に転じる可能性が10%はあるでしょう。また慢性糸球体腎炎でもANCA腎炎等の合併による蛋白尿増加で進行が始まる可能性が5%はあるでしょう。しかしその分を差し引いても、糖尿病性腎症の19%、慢性糸球体腎炎の20%は停止・寛解状態が続きます。
 このような成績は、マニュアルどおりの診療を行えばそれだけで得られるものではありません。日本の患者は優秀で律儀でさらに慎重です。例えば家庭での蓄尿が「できない」と拒否されることはまずありません。家庭血圧測定も、提案して実行しなかったという例は、ほとんどありません。家庭血圧を毎日朝晩に測定するのはかなり煩雑です。2ヵ月程経過を見て、変動が少なく、血圧値が目標域に収まっている場合、「週1回の朝・晩測定でもいいですよ」と提案します。しかし10人中8人は「いや、大丈夫です」と連日の測定を続けます。また患者には、「何か聴きたいことがあったら電話を」、と伝えてあるので、1日に10本近く電話が来ます。電話が来たら診ている患者に断りを入れ診療を中止して、すぐ電話に出るようにしています。そのような診療姿勢が好感を持って迎えられているのかもしれません。慢性腎臓病の進行につれて投薬の種類も量も多くなり、時々患者から「何でこんなに薬が多いのか」とのクレームが出ますが「あなたの病気は大変複雑で、そのため幾つもの荷物を背負っているような状態なのです」と図6を見せて説明します。

 よく「患者との信頼関係が大切」といいますが、医師がデータを示しそれなりの歩みよりを示す必要があると思います。

 ところで「4つの柱」の治療が優れているために好成績が得られたとしたら、治療プロトコルのどの部分がどの程度寄与しているのでしょうか。これもRCTで評価できれば良いのですが、対照群の設定に時間がかかります。そこで傾向スコア(propensity score)による検討ならそれほど時間がかからず、プロトコルの優れている点を明らかにできると考え、現在計画中です。

 もし保存期を透析回避を目ざして延長できるようになれば、国の施策を変える必要があります。腎臓専門医で保存療法に関心を持つ人は少なくないのですが、「時間がかかり、採算が合わない」と思っています。保存療法が普及するよう、ある条件を満たした保存療法には1ヵ月1000点(1万円)程度の助成が必要です。薬漬けの医療をなくす為と称して設けられた処方薬剤数7剤以上の場合減点する制度は院外処方が進んだ情況ではもう必要なく、中止するべきです。慢性腎臓病保存療法の分野だけでなく、他の医療分野でも7剤以上減点のルールに憤りを覚えている医師は居ると思います。「7剤以上」という線引きはそもそも医療を冒涜しており、なぜ医学会あげての反対の声が上がらないのでしょうか。

 患者についてみると、保存療法を受ける人にもっとはっきりした特典を設けるべきです。現在透析療法に入ると身体障害者1級としてすべての医療費は国と地方自治体の負担となります。
 しかし県によっては保存療法中でも、透析療法患者と同じ1級扱いとする所があります。この辺りのルールがはっきりしていません。保存療法でStage 5に入り、特に糸球体濾過量10以下となった患者は努力の末腎機能を維持している場合が少なくありません。透析療法医療を免れていればいるほど、医療費は節減されます。自分を守ることで結果として国家に貢献しています。私見では糸球体濾過量15以下あるいは10以下は身体障害者1級の扱いをするべきと思います。また治療上必要な低蛋白、低リン、低カリウムといった慢性腎臓病用特殊食品については確定申告の際「必要経費」として認めるべきです(この点については申告した税務署によって扱いが違いますが、必要経費と認める税務署が増えてきているのは、歓迎すべきことです)。
 よく保存療法を受けている患者の生活の質についての質問を腎臓専門医から受けます。表1に保存療法を透析療法と対比して示しました。これはStage 5に入ったばかりの患者を念頭に置いた表ですが、皆大変元気で気息奄々といった感じはまったくありません。ネフローゼ症候群による高度尿蛋白を呈することは少なく、ほとんどの例で血清アルブミンは正常値です。

表-1

 保存療法を受けている患者に聴くと「飲む薬の量が多く、赤血球造血刺激因子製剤を注射し、その費用負担もある。しかし大きな負担ではなく、透析療法に比べたら天と地の差だ。このまま一生保存療法を続けられればよいのだが」との答えが返ってきます。

Baldoxoroneは現在治験再開に向け準備中です。このハイテクの申し子は今後腎寿命の延長に寄与する可能性がありますが、そのような新薬の登場を待たなくても、従来からの治療法の組み合わせで、すでに透析回避の方向へ歩み出しているのです。「高度先進医療」が盛んに行われていますが、まったく高度でないlow technicの医療でもこれだけの効果があるのです。



結論

 透析原因の1位を占める糖尿病性腎症を「4つの柱」からなる保存療法で治療すると、3年間連続して観察できた45例中停止・寛解例が13例29%でした。また透析原因2位の慢性糸球体腎炎を同様に治療すると、3年間連続して観察できた134例中、停止・寛解例が34例25%でした。今後の10年以上の年月のなかで、糖尿病性腎症で13例中3例程度が進行に転じる可能性があります。慢性糸球体腎炎では10年以上の年月でうち5例程度が進行に転じる可能性があり、停止・寛解が29例22%となると予測されます。しかし糖尿病性腎症の22%は停止・寛解に止まります。対象とした集団は小規模で、標準的でないかもしれませんが糖尿病性腎症、慢性糸球体腎炎という、透析原因の1、2位を占める慢性腎臓病が進行せず、3年間以上これだけの率で停止・寛解を示すというのは、注目すべき内容と思います。