とりで通信

第133号 鳥瞰法(bird eye)で見えてくるもの ー CKD 患者さんの長期経過を追う ー


椎貝クリニック 椎貝 達夫

  図1 は 3 回も進 行 停 止 の 賞 状をさし上げた、 7 6 歳 、 男 性 、 慢 性 糸 球 体 腎 炎 ( C G N )の方の、 2 0 1 4 年 7 月迄 の e G F R の 折 れ 線 グラフで す 。
  3 回も賞 状 が 出 たからに は 、ずっと進 行 は 停まってい ただろうと皆さんは思 わ れるでしょう。 私もそう思 っていました 。ところがグラフを 作 成 すると、4 年以上の全 期 間ではわずかなら進 行していたので す 。 e G F R は 4 年間で 2 . 8 m L / m i n / 1 . 7 3 ㎡低 下しているので す 。この 位 ならこの方の 寿 命があと 3 0 年 間あったとしても、 未だ e G F R は 1 0 以 下 には 下がらないので 、「 安 心していい で すよ」と言 いたいところで す が 、それ は 医療者の見方で 、患者さんとしては 「いつか透析になるのじゃないか 」と心 穏 や か でありません 。

  数 年 前 から、患者さんの長 期 経過は高い空の上 から鳥 が 地 上を見下ろしたような見方が必要ではないかと考えていました。この鳥 瞰 法(b i r d e y e )での 観 察 は 必 要とは 思 い つ つ 時 間 がかかることなので 、 なかなか 実 現できませ んでした 。 此 度パソコン技 術 に 長けたある患 者さんのご協力により、5 0 2 人という 多 数 の患 者さんの4年以上に 亘る長 期のグラフを作 成していただき、それを眼に することができました 。 鳥 瞰 法で見 たC K D の世界は 、 いくつ かの点でこれ迄の常 識 を覆 すものでした。

1 .「生涯の透析回避」実現には、鳥瞰法が欠かせない

   図 1 の例で示したよ るのか検討する必要がありうに、1 年単位では良くても、 4~ 5 年の経過でみると「進行している」例がかなりあります。今後 1 年以上経過した例は、eGFR のグラフをかならず作り、「回避」という大目的が達成できるのか検討する必要があります。 図 2、3、 4、5 の例は図 1 の例と同じく 4 年間ではeGFR は低下しており、楽観的に見誤まる おそれがある例です。

2.症例によってはeGFRが激しく上下動する

 図6、7、8、9はいずれも女性で、過ごし、ほぼ一定のライフスタイルの方ばかeGFRの数字だけで見ていると大きな変化がないように思えますが、実はどの例も激しく上下動しています。ご存じのように、ほとんどすべての方は家庭血圧測定を行い、1ヵ月に1回24時間蓄尿をしてもらい、食塩摂取量や蛋白摂取量をしらべています。

 このようなeGFRの激しい上下動は生活スタイル(ライフスタイル)の変化によるのではないかと考えがちですが、ここに挙げた方達はいずれも女性で、ふだん家庭内で過ごし、ほぼ、一定のライフスタイルの方ばかりです。しょっちゅう旅行したり、外食が多いなど、ライフスタイルを変化させる生活様式はありません。何か未知のリスクファクター(進行因子)があり、その強さがしょっちゅう変化している可能性があります。しかし激しい上下動があっても、どの例も結局は元のレベルに戻っています。このような「恒常性」がどのようにして生じているかなど、考えだすとキリがありません。偶然性、カオス(ふつう混沌と訳します)理論の専門家に一度訊くべきだと考えています。新しいリスクファクターとしては最近注目されている「FGF23」「IL-6」などいくつかありますが、測定費用が1回1万円以上もするので到底測定できません。

3.突然進行が速くなる現象が、かなりの頻度で起こっている

  図10、11、12、13、14、15は、途中から急に進行速度が増し、うち2例はこれがきっかけとなり血液透析(HD)を開始しました。急に進行速度が変る現象は3年間で見て進行した糖尿病性腎症36例中6例(17%)で認められました。CGNでは3年間で見た進行例100例中20人(20%)でした。このような進行が2相性になる例はDN、CGNともにかなりの頻度でみられます。

 この2相性を示す原因は、はじめわかなかったのですが、とりで通信127号で述べたように、糸球体が障害され、蛋白尿が出ている所に「間質性腎炎」(IN)が合併したためではないかと考えました。その証拠はINの特効薬、カモスタット・メシレート(フォイパン)を服用すると、それまでの急な進行が停まり、逆にeGFRが上向きになることです(図16、17、18、19、20)。フォイパンはいつでも進行を停めるわけではありません。進行が2相性になる原因はほかにもあるのでしょうが、かなりの頻度でIN合併が生じていることは間違いなさそうです。

4.停止(stable)、寛解(remission)は3年間以上の観察で、より確からしいものになる

 表1はDN・CGNの3年間の進行パターンです。DNの寛解は3人(DN全体の6%)で、CGNでは0人(CGN全体の0%)です。停止はDNでは8人(17%)CGNでは21人(17%)で、DNで停止、寛解の頻度は高率です。なお進行・停止・寛解の定義はいつも1年間の経過でみているのを、3年間に延長したものとしました(表2)

 

 寛解例を図21から図25に示します。図21の例は1年半でeGFRが25.3から35.1に増えています。図22の例ではeGFRが33.3から62.9に増えています。図23の例ではeGFRが27から42.6に増えています。図24の例では4年間ととくに長い経過で、eGFRは19.5から32.8に増えています。以上はいずれもCGNですが、図25のDN例では4年間の経過でeGFRは19.3から22.5へ増えています。

 このような長期間に亘る観察でみられた「寛解」は、より信頼度が高く、その機序(メカニズム)はまったくわからないのですが、CKDは「次第に進行してしまうのが当り前」と言われている中で生じている現象に感動を覚えてしまいます。CKDのリスクファクター(進行因子)の研究が進めばメカニズムがわかるのでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 5. 図の作成は、患者さんを安心させます

    図26、27、28、29、30、31、32の例は、いずれも最近のeGFRが基線に平衡で、「これからも進行しないのではないか」と思わせる例です。これも作図してはじめてわかる事実です。いずれの例も上下動がありましたが、最近の3ヵ年以上に亘り、「安定している」と言えます。

  蛋白尿という厄介なリスクファクターがこれまでの治療で良くなっており、もはや病気を進行させる原因は、ほとんどすべて取り除かれています。

 この例は「生涯の透析回避」が可能と思われる例です。

6. eGFRは正しく腎機能を表わしているのか?

 なおeGFRでの観察は体の筋肉量の変化の影響を受け、正しく腎機能を反映していないおそれがあります。しかしeGFRとクレアチニンクリアランス(Ccr、筋肉量の影響を受けない)の相関をみると624のサンプルでr=0.9310、P<0.05と両者の相関性はきわめて高く(図33)、eGFRは正確に腎機能を反映していると言えます。

7. まとめ

 少なくとも4つの理由で「鳥瞰法」でみる重要性がおわかりになったと思います。この手法を全例で採り入れ、1人でも多く「生涯に亘る回避」の実現に近づまけたいと思います。