とりで通信

第132号 瞑 想につ い て


椎貝クリニック               椎貝 達夫

はじめに

  昨年の 5月中旬から、ステージ 5 (eGFR15 未満)に入った患者さんに「瞑想」を勧めています。現在 160 人以上の患者さんが「瞑想」に励んでいます。

1)  eGFR15 以下では、従来の治療では CKD の進行は停まらない

    図 1 は以前の eGFR15 未満の 10 人の患者さんの eGFR の折れ線グラフです。一人一の 方に十分な治療を行いましたが、 どの人も eGFR が下がり、結局透析療法に入りました。この段階まで来ると、4つの柱からなる CKD 保存療法は、まったく歯 が立ちませんでした。「先生の所まで来れど、やっぱりダメですか」と残念そうに透析に向ってしまいました。そこでステージ5 でも有効な保存療法がぜひ必要だと考えていました。

 

 2 )  「瞑想」を始めたきっかけ-SMAP 法のヒント

    腹膜透析 (PD) は腹腔内に体のチューブを挿入し、このチューブから潅流液を出し入れします。このチューブがつまってしまうとPD は続けられなくなりますから、チューブ挿入術はとても大切な手技です。東京都北区の王子病院院長の窪田実先生は、この挿入術の第一人者です。私が診ていた患者さんで PD に入る人は、すべて窪田先生に手術をお願いしています。チューブ挿入術後すぐに PD を始めなくても良い場合があります。そのような患者さんの場合、窪田先生はこのチューブを皮下にしまっておく方法を考案しました。それが SMAP 法で、クリニックの患者さんで、eGFR が 6以下に下がり、PD の準備として SMAP法を受けた方が 2012 年 1 月以来 12 人居ます。

    図-2はその人たちの eGFR の経過です。SMAP 後長期間 eGFR が下がらない方 が居ます。もっとも長い方は 2 年 2ヵ月です。ところが、この現象は PD の患者さんを多く診ている医師にとってはそう珍しいものではないとのことです。しかし私にとってこの現象は大きな驚きで、なぜ eGFR が下がらなくなるのか調べてみました。その結果SMAP 法開始とともに新しい薬が処方されたり、患者さんが新たに食事療法や健康法を始めたわけではないことがわかりました。そうなると変化したのは「心のあり方」ではないかと考えました。SMAP 後患者さんは「いよいよ PD の準備か」という落胆と「これでいつでも PD が始められる」という安心感を持つといいます。すごく大きな精神や心の変化ではありませんが、これが安定をもたらしたのではないかと考えました。そこで 2013 年 5 月中旬から eGFR が 15 以下に下がってしまった患者さんへ瞑想を勧めてみました。

3)   「瞑想」の成績

    図 3 は 10ヵ月以上「瞑想」を続けた75 人の eGFR の変化です。こんなに例数が多いと、グラフの線が重なり合ってわかりにくいのですが、全体として eGFR が低下している例は少ないことがわかると思います。

    これを前の勾配に比べ、瞑想後の勾配が有意に (p<0.05) 緩くなっている例は 42人 /75 人で、57% です(図 4)。つまり、すべての例で瞑想は有効ではないが、半数以上の例に対し、有効ということになります。

    図3を再び見て下さい。途中から eGFRが低下している例はなく、ほとんどの例で勾配が基線に平行です。未だ瞑想を治療にとり入れて 1 年に満たないのですが、今後何年も eGFR が保たれる可能性が高いと思います。

 

4)    「瞑想」の方法

    私は座禅の修行をしたことはありませんし、これまで「瞑想」とは縁のない生活を送ってきました。その人物が「瞑想」を勧めるのですから、勧められた患者さんは途惑いました。それでも「病気の進行を抑えるには、これしかありません」の言葉に一生懸命とり組んでくれました。患者さんが行った瞑想は 表1の 5 種類です。

    また「瞑想」では呼吸法はとても大切です。座禅、ヨガ、自彊術などは「瞑想」を一つの柱としていますが、呼吸法は共通しています。横浜の打越医師は診療の中で「瞑想」を勧めています。その方法を 図 5に示します。

 「 瞑 想 」 の 目 標 は 、 3 分 で も 5 分 で も 、心に「何も考えない状態」が生じることです。 瞑想」を始めて「無になった状態」を体験した人が大勢居ます。しかしこの無の状態を体験していない人でも、よく腎機能が保たれ、成績の良い人も居ます。体験していないと思っていても、短時間は無の状態に入っているのかも知れません。

    「瞑想」を夜に行うと、そのまま寝てしまいます。そうなると本当の「瞑想」にはならないので、眠くならない午前中に行うことをお勧めします。どうしても眠くなる人は、筆などを使う「写経」、声を出して読み上げる「読経」が向いていると思います。仕事がなお現役で「瞑想」の時間がなかなか取れないという人も居ます。電車通勤な、車中で座って「瞑想」の時間に充てられれば、それでもいいと思います。

 本を読んで 「瞑想」 になるのではという人が居ますが、本を読むと書いてあることの意味を辿るので 「瞑想」 にはなりません。自分で車を運転している時に「瞑想」を行うこともまず無理です。

5)   どうして「瞑想」が腎臓病の進行を停めるのか

    腎臓病の進行とは、一つは糸球体の「変性」です。糸球体の中を流れる血液の 量は次第に少なくなり、やがて一つの糸球体にまったく血液が流れなくなり、糸球体の働きは喪失します。組織で見ると糸球体のあった場所が他の物質で置き換っています。このような「変性」はすべての糸球体に一様に生じるのではなく、はじめは一部の糸球体は変性、他は正常のままですが、最後にはすべての糸球体が変性します。この糸球体の変性の過程を「瞑想」は抑えてしまうのでしょうか。

 もう一つの進行は間質の炎症です。間質とは大切な働きを持つ組織の間を埋めている組織です。腎臓の断面をみると糸球体と丸い尿細管の断面からなり立っています。糸球体は片方の腎臓に 100万個もあり、多いようですが断面の大部分は尿細管断面が目立ち、糸球体は所々に見えるだけです。正常の腎臓では尿細管は隙間なく並び、その間を埋めている間質といってもどこにあるかわからない程です。

    しかし腎臓病にかかると尿細管と尿細管の間にリンパ球を中心とする細胞が入り込み、間が広がります。やがて「線維化」といって線維細胞が入りこみ、間はさらに 広 が っ て ゆ き ま す 。 こ れ を「 間 質 炎 」と言い、この間質の炎症によって腎機能が下がるのではないかと考えられます。
なおこの問題はとりで通信126号で取り上げました。

 この二つの進行機序、糸球体炎と間質炎のどちらに「瞑想」が関係しているかは、まったくわかりません。eGFR15以下の進行の機序について、腎組織の専門医(病理医)にこれからお訊きする予定です。

  と こ ろ で「 瞑 想 」と い う 精 神 活 動・ 脳活動の変化が、どのようにして腎機能に影響するのでしょうか。まず考えられるのは自律神経の変化です。この点については、トレーニングを積んだ患者さんが増えているので、その人達で自律神経の指標である血中カテコラミン(アドレナリン、ノルアドレナリン、ドパミン)が「瞑想」でどう変化するか、検討を計画しています。 「瞑想」では機能的 MRI(fMRI)という検査で脳の帯状回に変化が生じるといわれています。しかしfMRIは実験室レベルで臨床現場では使えません。

まとめ

    「瞑想」はこれまでの CKD 治療を一変させる、画期的治療になるでしょう。eGFRが 10 迄低下しても、それ以下に腎機能が低下しなければ健康な人とあまり違わない生活を続けられます。違いは薬が多いこと、月 1 ~ 2 回の検査が必要なこと、それに食事の注意です。血液透析で週 3 回 4 時間以上の時間を取られ、就職条件も厳しくなる生活と比べれば、天と地の差です。

    このステージの医療費ですが、月に 3 ~ 6万円で、これは造血ホルモンの注射があるかないかで大きく異なります(今後保存療法で済む患者さんはますます増えますから、腎生会が中心となり、造血ホルモンの薬価を下げる運動も必要になります)。 いま EPS 細胞などの最先端医療ばかりが注目されていますが、「瞑想」のような人間の隠れた能力を引きだす方法は費用がかからず、危険もなく、すぐにでも役立つ治療法なのです。