とりで通信

第131号 透析療法を、いつはじめるか


椎貝クリニック  椎 貝 達 夫

1.  最近発表された血液透析導入ガイドライン(GL)

2013年12月の日本透析医学会誌にGLが発表されました。透析療法は大きく血液透析(HD)と腹膜透析(PD)に分けられますが、日本ではHDの比率が70%と高いので、HDのGLがGLを代表します。

「血液透析導入のタイミング」として以下が発表されました。」

    ステートメントとは声明、意見表明、主張などと訳されます。GLにタイミング、ステートメントなどの外国語が用いられることの是非がありますが、それはさておき、[       ]内をかみ砕いて述べると、「GFR(糸球体濾過値、eGFRのこと)15未満でHDが必要なことがある」「8未満まで症状がなければ保存療法による観察で良いが、症状がなくても2までにはHD導入とする」ということでしょう。このようなGLの文章が「わかりにくい」と思われる方も多いでしょう。しかしそれもさておき、今までともすると「透析導入を患者さんに知らせるのが早過ぎるのでは」と思わせる、全国の患者さんからの情報が多く、心配していましたが、このステートメント6、7で今後多少とも遅いHD導入になってゆくのではと、好感を持っています。

2.  いつ透析に踏み切るか、大いに迷うことが多い

    図1は尿毒症症状とGFRの関係です。クリニックには現在CKDステージ5(GFR15未満)の方々が275人通っています。さらに15未満や10未満、6未満に分けると図2のようになります。つまり「ラストステージ」の患者さんがきわめて多く通っているクリニックです。

尿毒症でもっとも早く現れるのは「急激な体重増加」です。この症状で患者さんから沢山の電話をいただき、2013年2月より図3のようなステージ5の患者さんの血圧・体重・自覚症状記入用紙を作成しました。これにより患者さんの尿毒症への理解も深まり、心配しての電話も大幅に減りました。

さて図1aを見ると、GFR20未満で水貯留による体重の急激な増加がみられるようになります。「急激」とは1~2日以内に起床時の体重が1㎏以上に増える状態です。他の病院、医院ではこれを透析導入のきっかけとする所が多いのですが、当クリニックでは表1の対策で体重を元の体重に戻してしまうので、水貯留、溢水は導入基準とは考えていません。「透析を導入した方が良い」と思わせる症状は、図1のうち、消化器症状:食欲低下、吐き気です。これは尿毒症を起こす尿毒素が貯まってきた為で、これの治療は今のところ透析しかありません。球形活性炭(クレメジン)、シャンピニオンエキス(美ちょう寿)も有効なことがありますが、効果は限られています。

GLでは「症状(兆候)が現れたとき導入に踏み切る」となっていますが、症状がいつまでも現れず、透析開始のきっかけがつかめない場合も多く経験しています。

内シャント(バスキュラーアクセス)を準備し、透析施設も決まっているのに症状がまったく現われず、長いこと待機の状態を続けることがあります。

図4は最近HDを開始した患者さんの、開始時のGFRです。開始に踏み切ると、「体が軽くなった」「食事がおいしくなった」といった症状から、透析以前に「準尿毒症」といった状態であったことがわかります。

図1.水貯留、消化器症状、強い倦怠感とGFRの関係

    GLでは「GFR2までに開始が望ましい」となっていますが、患者さん一人一人といろいろ話をしてみると、「GFRが4未満となったとき、あるいは3に到達したとき」には透析を開始すべきと考えます。

図2.ステージ5で通院している275人の内訳

表1.水貯留の対策

図3.CKDステージ5 記録表

図4.透析開始時のGFR

3. まとめ

 新しいGLでは「8未満で導入を考え、2迄に導入」ですが、クリニックでの経験で、「尿毒症の消化器症状は6未満ではみられないので、6以下になったとき、透析の準備としてHDであれば内シャント(バスキュラーアクセス)造設、PDであれば自覚症状がなくても腹腔カテーテル挿入を行い、患者さんも主治医も注意深く自覚症状を見守り、GFRが4未満、あるいは3に到達したとき、透析に踏み切る」が良いのではないかと考えます。

   透析をめぐってはほかにさまざまな問題があります。

1.欧米で主流となっている「早い導入」と日本に代表される「遅い導入」のどちらが良いのか、2.欧米で増えてきた患者さんの透析拒否、透析辞退の問題、3.クリニックのおもなテーマである、「透析ではなく、腎不全の最終手段は保存療法ではないのか」

 これらについては稿を改めて述べたいと思います。