とりで通信

第120号 慢性腎臓病(CKD)の医療費


椎貝クリニック     椎貝達夫

    2011年3月11日は日本人にとって忘れられない痛みの日となってしまいました。この怜悧な真面目な人々の暮らす国がなぜこれ種の災害を受けるのでしょうか。今はただ亡くなられた方々を悼み、ご家族を亡くされた方、財産を失くされた方にできるだけの手をさし伸べることしかありません。

    今回は医療費をとり上げます。これは6カ月前から企画しておりました。大事な問題ですからよくお読み下さい。

    CKD保存療法で患者の皆さんが現金で支払われる金額は、かかった医療費全体の三割の人が多く、一部の人が二割です。皆さんはこの支払いを高いと感じられるでしょうか。

1) 保存療法の医療費

    図1はCKDのステージ(病期)別の医療費をグラフに表わしたものです。ステージ5という、もっとも病期が進んだ状態はeGFR(推算糸球体濾過量)15~11と10 ml/min/1.73㎡以下では医療費がかなり違うので、ステージ5a、5bに分けました。

     各ステージ毎に20人の人々を無作為に選び、医療費の平均値を求めました。

    図1で目立つのはステージが進むにつれて医療費が右肩上がりに増えてゆくことです。次に図2を見ますと、その医療費で変化しているのは薬の費用だということがわかります。患者の皆さんは病気が進むと手帳に記入されたデータに異常値が多くなり、それを直すために薬が増えてゆくのを実感されていることと思います。

    さて各ステージの医療費を見ますと、ステージ2で月額27,050 円、ステージ5bで68,490円とステージ2の2.53倍になります。

もしステージ3迄で生涯を過ごすことができれば月に3万円台の医療費で済みます。ステージ3ではネスプなどの造血ホルモン注射をすることも未だ少なく、血圧も下がりやすく、蛋白制限も楽に実行できます。私はステージ3迄の状態で保存療法を始めるべきと思います。現在クリニックにステージ4、ステージ5の人が多く来院されています。これらのステージの人にも完全停止を示している人は多く、それはそれで立派なのですが、将来あるべき姿としてステージ3迄で保存療法にとり組むべきと思います。

2) 食事療法にかけている費用

    保存療法の医療費で忘れてならないのは患者さんが食事療法にかけている費用です。これは医療費には計上されませんが、実際は医療費の一部と見るべきです。2月から3月にかけ、通院しているCKD患者さんのアンケート調査を行い、低蛋白用食材費、宅配分の費用等を調べました(図3)

    ステージ別にみると、ステージが進むにつれて食品にかける費用が増加する傾向がありますが、個人個人の差が大きく、ステージ毎に幾ら要していると言えません。平均して、ステージ3で1万円、ステージ4で1万5千円、ステージ5で2万円前後でしょうか。

    これらの費用も、当然医療コストに含めます。これからはこれらの費用を少なくとも医療費控除として認める方向が大切です。大部分の税務署で控除を認めますが、認めない所もなおあります。

3)透析療法と保存療法の医療費差額 – 5年で2,5OO万円近くに -

    例えばステージ3で腎臓病の進行が止まったとすると、年額の医療費は月々の医療費の12倍で42万円となります。もし正式な保存療法を受けずに透析療法に入ったとすると、医療費は年400万円、その時点から医療費の差額は年に358万円になります。ずっとステージ3のままであれば差額は5年間で1,790万円、10年間で3,580百円となります(図4)

    1人の患者さんでステージ3に止まった場合と透析に入った場合では医療費の差額はこのように巨額になります。ステージ3で5年間止まっている人が10人なら1億8千万円、100人なら18億円となるのです。

    透析の医療費は個人では到底払えない額なので、国費で賄われます。市町村によっては1万円だけ患者さん負担の所もあります。保存療法で病気の進行を抑えている人達は国の負担を減らしているので、国への貢献度は大きいものがあります。私がなるべく身体障害者1級あるいは3級の診断書を市町村に提出するように勧めているのは、それが患者さんにとってせめてもの権利の主張と考えるからです。

4)保存療法の成績は改善している !

    クリニックでの保存療法により2011年3月の時点で尿蛋白0.3 g/日未満に達している人は、非糖尿病性腎症(慣性腎炎、腎硬化症、間質性腎炎等)で243人中100人、41.2%、糖尿病性腎症で 46人中6人,13%です。「尿蛋白0.3 g/日未満」は生涯の透析回避へのパスポートです。「保存療法で一生を過ごす」はもうそれ程難しいことではなくなりました。

5)日本を保存療法を第一の選択肢とする国にしよう

    今回の大震災ではライフラインが寸断され、透析医療、とくに血液透析は危機的な情況に陥入りました。幸い医療機関の連携プレーで透析患者さんに死者を出さなくて済みましたが、日本のように災害の多い国に血液透析は不向きです。世界全体で見てもCKD対策はもっと省エネルギー、省資源な方法にするべきです。

    今回の福島原発の事故は世界各国のエネルギ一政策を見直すきっかけになります。やがてカネ食い虫の血液透析を見直す動きが出てくるでしょう。しかも保存療法の成績は改善しています。透析療法は一番目ではなく、二番目の選択肢にするべきです。その先駆けが日本でありたいも
のです。

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    余談ですが、薬剤数が増えるとクリニックの収入が増えると思って居られる人が居ると思います。しかしそんなことはありません。薬の仕入れ値は薬価 (公定価格)より7-10%低くなっています。したがって差益はたしかにあるのですが、それを求めて薬を多く処方することはありません。以前は差益が30%にもなる薬があり、悪評高い 「薬漬け医療」を産んだのですが、現在のように差益が10%以下になると利益を求めて薬を増やすことはないのです。どんな商売でも差益は30%はないと利益は出ないのは、商売をされている方はわかると思います。私にとって薬の処方数を増やすことはかなり辛いことです。診察の度にどれか減らせる薬はないか探すのですが、病気が進んでゆくと薬は増えてしまうのです。もう一つつけ加えると、厚労省は 「7種類以上処方するとその薬価の10Wを医療機関の取り分から差し引く」という制限を作りました。これは今なお残る薬漬け医療を減らすための謂わば罰則 (ペナルティ一)です。腎臓病が進むと病態は複雑になり、どうしても薬剤の種類を増やさなければなりません。それを「悪」ときめつけ、10%を差し引く施策はひどいとしか、言いようがありません。機会があるごとに抗議しますので、皆さんも応援して下さい。

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