とりで通信

第122号 食事療法について


椎貝クリニック       椎貝達夫

1) 蛋白摂取量 (protein intake, PI)

    PI は24 時間蓄尿の尿中尿素窒素濃度、現在の体重、尿量からグラムの単位で求めることができます。それ以外の方法では正確に求めることはできません。

1)   蛋白をなぜ制限するのか

    腎臓病ではPIを制限し、低蛋白食とすることはすべての教科書、患者さん向け医学書に書かれています。

    蛋白、糖質(炭水化物)、脂肪の三大栄養素のなかで、蛋白のみが窒素を持っています。腎臓の機能が下がってくると、この窒素を含んだ老廃物が十分排泄できなくなり、血中の窒素系老廃物の濃度が次第に上昇します。腎臓病手帳の血液の項にある尿素窒素(BUN)は血中の老廃物の濃度を表わしています。

    血中の老廃物濃度が高くなることでよく知られた症状は吐き気(悪心)です。これが現われると透析療法を考えなければなりません。しかしこの吐き気を起こす老廃物以外に、精神障害や血管の動脈硬化・老化を起こす老廃物など、50種類以上の老廃物が溜ってくるのです。

    このような尿毒症物質の大本は窒素だから、窒素を含む蛋白は制限すべきだろう、と考える
わけです。

    では実際に蛋白制限はどのような効果を持つのでしょうか。

    以下の3つが蛋白制限の効果と考えられてきました。

    1.  尿毒症の症状の発現を抑える
    2.  腎臓病の進行を抑える
    3.   進行を促す蛋白尿を減少させる

    1. は腎臓病の末期にはかならず現われますが、腎機能が10%を切るまではあまりはっきりし
ません。症状が出れば透析療法で症状は見事に消失します。だから腎機能が少し下がった
程度では、蛋自制限はしなくても良いのではないかとの考えが、欧米の主流となっています。し
たがって、国際会議で蓄尿を行うことをやめることにしてPI の情報なしに診療を行うことを決
めてしまったのです。

CKD一ロメモ (2)
尿素窒素(Blood Urea Nitrogen: BUN尿素窒素は血中の尿素に含まれる窒素分で、尿素は蛋白質が分解されてできる老廃物であり、腎機能が正常であれば尿と一緒に排泄される。腎機能が低下するど血液中の尿素窒素をうまく濾過するこどができないため血液中の尿素繋索の量が多くなる。脱水や栄養障害でも多くなる。基準値は7~20 mg/dl である。100 mg/dl 以上になると尿毒症の起こる可能性は高くなる。

    それではPI について、まったく無制限でよいかというと、そう考える専門家はさすがに居ないのすが、蓄尿によるチェックが行われていないで、肉を多く摂る食習慣の国では標準体重Kg当り1.3~2.3 g (1日80~140 g) も摂る状態に陥入っているようです。

    2.  進行を抑える効果は、私がJapan-KD 試験で大勢の専門医と8年間かけて調べましたが、結局、効果の確認はできずに終りました。(図-1)それ以前に全米で行われたMDRD も効果ははっきりしませんでした。食事のPIを一定にして長期間経過をみるという方法に、問題があるといわれますが、さりとて仲々良い試験方法が思いつかないというのが現状です。

    3.  のPI減少が尿蛋白を減少させる効果(図2)は糖尿病性腎症、非糖尿病性腎症の一部では認められますが、一部に過ぎず、すべての患者さんが蛋白を制限する理由にはなりません。

    現在当クリニックでは蛋白制限を勧めていますが、その一番の根拠は

蛋白は必要最低限の摂取量として、尿毒症物質の血中濃度を抑え、脳・心胸・腎臓・全身の血管などへの毒素の影響をなるべく抑えるべきだ、です。

 

2) PI の制限はどこまでか

    クリニックではPI は「標準体重 kg 当り0.8 g」 としています。標準体重60 kg の人では48 g のPI となります。PIは少なければ少ないほど良いと思っている患者さんが居ますが、そうではありません。PIが少な過ぎるとただちに筋肉がエネルギー源として消費され、筋肉が減少します。1992 年にカナダで研究され、「標準体重kg 当り蛋白0.58 g 以下とすることは、栄養障害のおそれから体
に危険である」と結諭されています。しかし個人差、個体差はかなりあり、以前から標準体重kg 当り蛋白0.5 g を実行している人で、筋肉量を表わす尿クレアチニン排泄量がまったく減少しない人も居ます。一般には、Pl を減らしたらすぐに筋肉量の減少が生じます。

    PIは日常生活のなかでかなり動揺します。毎日まったく同じ献立で平気な人は居ません。10人の患者さんのPIを10回分記録すると、蛋白0.6 g近辺を実行しようとすると、図3のように0.58 g以下という危険ゾーンにかなりの率で入ります。しかし目標を蛋白0.8 g近辺とすると、図4のように危険ゾーンに入ることはほとんどなくなります。現在一律に蛋白0.8 gとしているのは、患者さんの安全を考えたうえでの方針なのです。

    一年間以上の長期にわたって腎機能がまったく低下しない「長期安定例」の人が約60人居られます。その患者さんのPIをみると、PI 0.8 g以下が守れていず、もっとPIが多い人も居ます。

     つまりPIを守ることは、腎不全の進行を止めるための絶対条件ではないのです。進行を左右している第一の因子はいつも言っている尿蛋白です。

    ある腎専門医は「PIを0.4 g台、あるいは0.3 g台としないと進行を抑えられない」と言つていますが、そのようなことはありません。

2) 食塩摂取量 (NaCelI)について

① 患者さんのNaClI

    日本人のNaClIはなお多く、1日11 g前後です。当クリニックの患者さん166人の最近の1年間の腎臓病手帳の成績をまとめると、図5のように、常に7 g 以下の人は9%に過ぎません。1度も7 g 以下に入らず、それより多かった人も9%。居ました。残りの82%はある程度7 g以下を実行していました。1年間の平均値でみると7g以下は33%と少なく、9 g以上が28%、8.1~9 gが15%、7.1~8 gが 26%でした。つまり腎臓病で通院し、食事療法を実行しようという意欲が強い人達でも塩分制限は
難しいのです。日本腎臓学会、日本循環器学会などでは1日6 g以下のNaClIを推奨していますが、別に24時間蓄尿によるデータを元に提案しているわけではありません。

欧米では6 g以下、5 g以下が推奨されているので、それに合わせたようです。当クリニックで1日7 g以下としているのは、長い間蓄尿による患者さんの実態をみてきて何とか実行できる線としての提案なのです。高血圧の人で蓄尿による実態調査を行えば1日6 g以下が実行できている人はほとんど居ないことがわかるでしょう。学会として提案するのなら、それが果して実行可能かどうか、ま
ず実態を調査すべきと思います。

② なぜ塩分を制限するのか

    よく知られた事実は塩の摂りすぎは血圧を上げる、というものです。腎機能、が低下すると、血圧とNaClIの関係はより密接になります。7 g以下の塩分制限が実行できれば、降圧薬の服用量は1~2種類減らせると思います。ふだんから薬の剤数が多いと思っている人は、不平を言う
前に減塩に励んでもらいたいものです。

    減塩→血圧下降→尿蛋白減少→病気の進行が遅くなる、ですから、どうしたら減塩が実行できるのか、もっと私たちは工夫をしなくてはなりません。

    そのほか塩の摂り過ぎの人は胃癌になり易いというデータがあります。さらに動脈硬化を直接促進する、というデータもあります。

③ クリニックの成績から、減塩は薬の蛋白尿を減らす作用に結びついていることがわかった

図6のように、突然尿蛋白排泄が増加することがあります。この時PIが増加したり、血圧が上昇しているわけではありません。私の長い診療経験のなかで、この尿蛋白の突然の増加「エスケープ」を多数経験してきましたが、原因がわかりませんでした。2011年4月の集計で、27人の患者さんで見つかり、これは全通院数の10%近くにのぼりました。エスケープはそう稀な現象ではないのです。

 

このエスケープの原因は何か。15年前に第一例を経験して以来、長い間の謎でしたが27人の分析から、解決の緒が見つかりました。図7はNaClI、PI 尿蛋白排泄量るエスケープを起こした人 (エスケープ群)と長期間起こさなかった人(対照群) とを比較したものです。

    NaClIはエスケープ群で8.7 ± 2.9 g、対照群で6.7±3.5 gとエスケープ群ではNaClIが2 gも多いという結果でした。

    図6に示したエスケープを2回起こした人でも、下段のNaClIをみると、7 g以下が守れていない回数が11回と多く、減塩の不徹底がエスケープに関連した疑いが出てきます。

    このデータの解釈をさらに進めると、現在多くの患者さんに用いられているレニン、アンジオテンシン系を阻害するアンジオ受容体拮抗薬(ARB,ブロプレス、ニューロタン)アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI,ロンゲス、レニベース等)の蛋白尿減少作用は、減塩が正しく行われていると強くなり、減塩がよくできないと弱くなる可能性があります。この点、について、いずれ確かめてみる必要を感じます。なにしろ蓄尿を行ってNaClIを正確に求められる医療機関はJAとりで総合医療センター、稚貝クリニックなどごく少数しかありません。

4) まとめ

    食事療法として、PI、NaClIをとりあげました。蛋白制限は大切ですが、ひどく多い状態でなければよく、それよりも食塩制限がより大切で、7 g以下の減塩の工夫をもっと重ねる必要があります。