とりで通信

第123号 第三の道を目ざそう!


-透析でも移植でもない、CKD問題への解答-

椎貝クリニック    椎貝達夫

1) 今までほ 「減速」が目標だった

    1980年からの、私と共同研究者の約30年間のCKD保存療法の追究のなかで、はじめはCKD進行の速度を減速できればそれで良いのではないかと考えていました。拙著「腎臓病の話」でも、進行速度が多くの人で減速する図を載せています(図1)

    ここで示しているのは、「高率にかなりの減速が可能」ということです。

    しかしCKD患者さんの側から見ると、減速では結局透析に人る運命を免れないのではないかという不安がつきまといます。また減速の結果予測される進行速度の勾配から、「あなたの腎機能が、透析を必要とするeGFRが6ml/min/1.73 ㎡以下に至るのは95歳と予測されます」と言われても、それが言外に「あなたの寿命はそこまではないでしょう」と言わんとしていることはわかっても、患者さんとしてはあまり嬉しくはないというのが本音だと思います。

    「減速では釈然としない、生涯に亘って透析を回避できる、確証が欲しい」というのが患者さんの本当の気持ちだと思います。そのことを強く思ったのは今から10年程前でした。

2) 「進行停止」を目ざす

    1998年頃から進行が完全に停止していると思われる例がチラホラみられるようになりました。しかしその当時は全体の10%程度にしか過ぎませんでした。いろいろな幸運が重なって生じる、稀な現象と思っていました。現在の1年間進行停止の数は 118人で、これは1年以上観察した181人の65.2%に相当します。「寛解(腎機能が改善している)」を含めると71.3%となります。「きわめて稀」からここまで増えてきたのです(図2)。なお「寛解」「停止」「進行」の定義はとりで通信簿110号に載っています。

3) 「進行停止」となる条件

    進行停止は尿蛋白排泄量(UPE)を0.3 g/ 日未満まで減少させれば実現します。 しかし患者さんの実績 (アウトカム)で見ると停止あるいは寛解の人はべつにUPE が0.3 g/日未満でなくても、多数例でみられるのです(図8参照)

    UPE 0.3 g/日未満は「生涯の透析回避のパスポート」であり、停止の「必要十分条件」です(表1)。しかし進行例はすべてUPE 0.3 g/日以上です。つまり0.3 g未満に達すればもっとも良いのですが、UPEがもっと多い人でも「停止」は起こり得ます。停止する条件はなお十分に解明されていません。UPEが多くても悲観したり、諦めることなく、自分でできることを100%実行して欲しいのです。

4) 「停止」を実現させるには

① ライフスタイルに問題はないのか

     図3の21の進行因子中、点線で囲んだ生活習慣の項をもう一度見て下さい。喫煙は蛋白灰を増やし、動脈硬化を促進します。タバコを続けながら保存療法にとり組むというのは、論外です。

    冬になると決まって血清クレアチニンが上昇する人が居ますが、これは手足の冷えが交感神経の興奮を促し、腎機能を下げるのでしょう。寒冷に曝されるお仕事は冬は避けるべきです。

    塩分制限が大切です。しかしこの制限は難しく、1日7 g以下の食塩制限をずっと続けている人は患者さんの32%に過ぎません。塩分制限ができないと尿蛋白が急に増加する現象がみられます。塩分の多い人では蛋白尿を減らす抗蛋白尿薬の効果が弱いのです(図4)。言い方を変えれば塩分が多いと薬の効果は十分とならず、本当は停止例になる筈なのに、進行例となってしまう場合があるようです。

② 高血圧を見逃していないか

    椎貝クリニックでの血圧コントロールの中心は家庭血圧法です。この方法の採用により、外来血圧のみの場合た比べ、はるかに良く隠れ高血圧を見つけ出じています。しかし血圧は1日中刻々と変化するので、家庭血圧法でも高血圧の時期を見逃していることがなりとは言えません。もしその疑いがあるなら、1日中の血圧を測る装置(ABPM)で答えを出します。クリニックには1台測定装置があります。

③ 薬の飲み方に問題はないか

    薬の飲み方にムラがあると、どんなに良い薬でも効果が出ません。1日3回服用の薬の場合、昼食後を忘れてしまう人がよく居ます。昼に飲まなければ効果は3分の2になり、その為に効果が出ないのかもしれません。蛋白尿の薬は定められたとおりに飲むことが前提です。もし効果がなければ次の薬に移ります。

5) 「停止」には,やはり尿蛋白を減らすことが大切

    尿蛋白は最大の進行因子であることは違いないので、極力尿蛋白を減らし0.3 g/日未満に近づける努力をします。それには抗蛋白尿薬の3者ないし4者療法をまず徹底して実行します(図5)

    その状態でもなお尿蛋白が多く、それが進行因子と思われる場合、つけ加える薬とその有効率についてまとめました(表2)

   未経験の薬として、活性ビタミンD製剤、アクトス(ピオグリタゾン)があり、今年効果をしらべます。

   また以前用いたことがあるが、再度効果を見たい薬としてアルダクトン(スピロノラクトン)があります。

    また今年2月から当クリニツクでも治験が始まるバルドキソロンは尿蛋白は減らしませんが明らかな腎機能改善効果があり、期待できます。

    今は持ちこたえ、長く頑張れば新薬の出現で新しい世界が開けるかもしれないのです。

6) どのステージで「停止」とするかも大切

図6に示したように、CKDステージが上がるにつれて医療費が上がってゆきます。費用負担の面からも早く治療するに越したことはありません。

    また、図-7に示したように、腎機能が下がれば異常項目が増え、その異常すべてに眼を配らないとなりませんから、腎機能がせいぜい35%の所で停止に持ち込みたいものです。この状態では腎性貧血は未だ生じていないことが多く、薬の量もそれ程多くなりません。

7) 「蛋白質仮説」では十分説明できない現象

図8は寛解・停止・進行の3群の1年間のUPEの平均値を示したものです。個々の例の12回の相加平均を平均値として点で表現しました。これで見るとUPEは各群で他群との重なり(オーバーラップ)が多く、UPEが多くても停止する場合や、UPEが少なくても進行ずる場合があることがわかります。つまり最大の進行因子UPEで進行性をかなりの程度説明できるという、「尿蛋白仮説」では十分説明できないのです。

    そこでこの181例について1例毎の進行速度(ml/min/1.73 m2/month))を求め、これを目的変数としたときの説明変数を多変量解析で求める試みを始める予定です。説明変数としては尿蛋白のほかにeGFR、CCr、年齢、性別、血圧値(外来・家庭)、蛋白摂取量、食塩摂取量、薬の種類などを考えています。

8) まとめ

    「第三の道」は進行の停止・寛解を合わせると約71.3%となり、かなり太い、堂々たるものになって来ました。この道にもしCKDステージ3迄に人ることができれば、医療費もあまりかからず、生活の質も保たれる、すばらしい生涯を送ることができます。もう保存療法は「結局は敗け戦」「一時的な時間稼ぎ」から完全に脱け出したのです。

    問題はどのような例が停止、寛解となるかが十分に解明されていない点です。この点の解明がなされれば、停止・寛解例がさらに増えることは間違いありません。

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