とりで通信

第130号 腎臓専門医制度はこれで良いか


-クリニックを受診した患者さんからの不満の声-

椎貝クリニック     椎 貝  達 夫

1) はじめに

    腎 機 能 ( ここで は eGFR) が 60 mℓ/min/1.73 ㎡以下となった慢性腎臓病(CKD) の患者さんの数は 1003 万人居るといわれています (CKD 診療ガイド 2013)。 この 人 達 はいず れ 透 析が必 要になるかも知れないという、不安のなかで毎日を過ごしています。

   そして一般内科医ではなく、腎臓専門医のもとを受 診します。 専 門 医なら的 確な指導・診療をしてくれ、安心できるのではないかと期待するからです。

    ところがほとんどの場合、専門医の診療内容は患者さんの期待を裏切るものです。多くの患者さんは不満を持ちつつ通い続けます。

    2011 年 12 月に月刊文藝春秋に私の「患者よ あなたに透析は必要か」が掲載され、その後さらに 2 回にわたり続篇が掲載されました。この論 文に対 する読 者の反響は大きく、発売と同時にクリニックの電話が鳴りはじめました。 ほとんどが診療申し込みのための電話でした。

    2011 年 12 月から 2012 年 3 月の 4ヵ月間にクリニックを新たに訪れた患者さんの数は 184 人に上りました。

    その患者さんが今までの医療機関を離れ、当クリニックを受診する理由はかなり共通していましたので、2011 年 12 月に急遽アンケート用紙を作成し、訪れた患者さんに記入をお願いしました。

 アンケートは「これまで受けてきた診 療についての評価」のタイトルで、患者さんの性・年齢・腎機能などの属性、今迄の医療機関、 主治医の属性、これまでの診療の評価等から成り立っています。

     アンケート用紙への記入は、10 ~ 30 分かかるものでしたが、すべての患者さんが詳  細に解答されました。 用紙への記入終了後、クリニックの看護師がさらに補足質問する形式をとった為、回収率は 100%となりました。 丁 寧に答えていただいた患 者さん、質問し、解答の補完をした看護師に改めてお礼を申しあげます。

2) アンケート結果

    に示したように、男性が 60.1%を占め、平均年齢は 60.9 歳、CKD ステージはステージ 5 が 108 人で 58.7%を占め、次いでステージ 4、ステージ 3 の順でした。

    なお、前 医が腎臓 専 門 医であったかどうかは日本腎臓学会が学会誌に掲載した「腎臓専門医名簿」に照合しました。専門医を受診した人は 79 人 (42.9%) でした。

    回答内容は専門医を受診した場合とそれ以外の医師を受診した場合と一部をのぞいて大きく異なるものではなかった為、全体の 184 人での集計結果を示します。

    「前医の CKD 進行への対策について」は、図 1 に示すように「理解できなかった」が 33%、「まあまあ理解できた」が 43%で、「良く理解できた」は 22%でした。

 「前医の評価」は、図 2 に示すように「悪い・いちじるしく悪い」が 28%、「良い・ふつう」は 68%でした。

    「診 療 全 体の評 価」は、図 3 に示すように「悪い・いちじるしく悪い」が 69%でした。

    なお、この項だけ腎臓専門医では「悪い・いちじるしく悪い」が 31% と、腎臓専門医に対する評価は良い傾向を示しました。

 「診 療のどこが不 満だったか」は、図 4 に示すように「具体的対策の説明がない」が 34%、「医師の態度が信頼できない」が 19%でした。

 「クリニックへ 来 院の動 機」は図 5 に示すように「それまでの診療に不満」が 58%、「より良い診療を求めて」が 41%でした。

    これ以上に具体的にどういった主治医の言葉が患者さんの心に残ったか (「心を傷つけた」としても良いでしょう ) を記入してもらいました。

  共通するのは、「すでに腎不全状態で、腎機能は今後かぎりなく 0に近づくから、多少の時間の違いはあってもいずれ透析になる」との主 治 医の言 葉に不 満・失 望を覚えたというものでした。 「透 析に入るのも悪くない。日本の透 析のレベルは世 界一」も多く聞かれた医師の言葉で、患者さんは親戚や友人が透析療法に入り、いろいろな悩みを抱えたり苦しんだりしているのを知っているので、「医師は向こう岸に居て、患者を観察しているだけなんだな」と思ったといいます。

    「腎 不 全 について、もっと勉 強 するように」と患 者さんに下 駄を預けた人も居ます。そういうだけで具 体 的に読んでおくべきテキストは示されなかったといいます。

    「腎臓 病といえば食 事 療 法」は患 者さんの常識ですが、主治医から食事療法の話は一度もなかった人、一回だけ栄養士の指導を受けた人がいました。

     「今の状態はどうですか」との患者さんの問いに、「ボチボチです」との返答があり、それ以上の説明はなく、馬鹿にされているように思え、大きく失望したといいます。

    また腎機能が十分にあるうちから、透析療法の可能性を話す医師もかなり居ました。話が出た時の GFRは最高20mℓ/min/1.73㎡でした。透析導入の準備をすべき腎機能は「GFRが 6以下になったとき」に多くの腎臓専門医の意見は一致しています。これより多い腎機能「GFR8以下」
と考える専門医も居ますが、正式な見解として発表されていません。私は「6以下」を早過ぎも遅過ぎもしない、適正な見解と考えています (透析導入の工程・基準については、大切な問題ですから稿を改めて述べたいと思います )。

3) 考察

  医師国家試験は年々難しくなり、医学部に入ってもどうしても国家試験にパスできず、やむなく医師になることを諦める人は年々かなりの数に上ります。腎臓専門医試験に挑戦するには、まず国家試験にパスし、2年間の研修医生活を送ったのち、さらに内科専門医試験にパスするという、何段階ものハードルを越え、はじめて受験できます。腎臓専門医を取得した医師とは、同じ医師のなかでもかなりのエリートといえます。

  その専門医が、頼って訪れた CKD患者さんにとって多くの場合期待を裏切るものになっているのです。

  専門医の人達を先輩の専門医として叱責・非難することは容易ですが、個々の医師の問題ではなく、「専門医の教育のあり方」に問題があるのではないかと考えるに至りました。

  「腎臓病セルフアセスメント2012」(東京医学社 )は腎臓専門医受験の為の試験問題集です。

  この問題集を読むと、CKDの患者さんが失望する理由が分かります。この問題集で欠落している項目を挙げると以下のようになります。1. 尿蛋白 (-)で eGFR60以下の、大部分が「腎硬化症」と思われる CKDについての記載がない。

    eGFRが普及してきましたから、健診等で上記症状を指摘され、腎臓専門医を受診する人は増える一方です。当クリニックを新たに受診する人の約半数は、このCKDで、90%以上が eGFRが低下せず、透析を必要とする心配がないのですが、その点を明らかにし、患者さんの戸惑いを減らす必要があります。透析原因となる CKDの第3位はこの「腎硬化症」となっていますが、真の腎硬化症から透析に至る人はごくわずかで、透析に至る CKDの大部分は糸球体腎炎、間質性腎炎と思います。

  2. 問題に長期観察の結果についてのものがほとんどない。CKDstage3→4→5と進む場合、1年~3年の時間を要します。そのような長期に経過が亘る場合の対処法についての問題はほとんどありません。

    3. 付録にある腎臓専門医研修カリキュラム (内科系 )、「慢性腎不全」の項をみると透析に至らないよう、主治医と患者は協力してどのような努力をすべきかがまったく書かれていません。

   1003万人の CKDstage3以上の人のなかから、透析への不安から受診する人がきわめて多く発生しています。腎臓専門医向けのカリキュラムにこのような欠落があることが、患者さんの失望を招いているのです。

    専門医制度を統括する池田康夫氏 (日本専門医評価・認定機構理事長 )は、週間医学会新聞のインタビューで、次のように述べています。

    1. 学会毎に独自に制度を設けているため、専門医としての質が保たれているか疑問がある。
 
    2. 専門医はその旨を広告に記載できるが、今の専門医はそのような患者さんの期待に応えるほどの質ではないのではないか。

    3. 専門医の認定は学会ではなく、今後中立的な第三者機関が行い、患者さんの信頼を得たい。

 これは腎臓専門医制度についてではなく、一般論として述べられているのですが、他の分野の専門医制度にもいろいろ問題が生じていることを思わせます。

4) まとめ

    1. 腎臓専門医を受診した患者さんには期待を裏切られたと感じた人が多くみられました。

    2. これは専門医の資質によるのではなく、専門医向けの問題に強い偏りがあり、「進行する CKDに心のケアとしてどう対処するか」「進行を抑制する治療は何なのか」についての問題がきわめて少なく、不安を抱え訪れた CKD患者さんにうまく対処できない為ではないかと考えられました。

3. 日本腎臓学会は、CKDステージ3以上の患者さんを安心させる卒後教育カリキュラムを、至急作成すべきと思います。