とりで通信

第127号 『生涯の透析回避』は本当に可能なのか


椎貝クリニック                         椎貝達夫

1) はじめに

「生涯の透析回避」はすべての非透析CKD患者さんの願いです。しかし回避できたかどうかわかるのは、現在70歳の人でも20年以上先です。現在の治療成績がいくら良くても、そんな先のことがいま約束できるのでしょうか。

私は1978年よりCKD保存療法を行っています。今年で35年目に入ります。その間多くの人々を透析療法に移行させてしまいました。はるか以前に入った人から、最近入った方まで、多くの方々のお顔が目に浮かびます。皆さんの表情は穏やかですが、目で訴えているのは、「先生、未だできないんですか」です。その声に押されていろいろな試みをし、成績は着実に改善していることは、皆さんもご存じと思います。

昨年 1年間で 15人の人が透析に入ったことは、前号(126号)で述べました。この人数は実質 700人以上が通い、しかもStage5が22.6%と、Stageの進んだ人が多いなかでは、きわめて少ないと言えます。少しでも導入数を減らすよう、努力します。今回は1人ずつ今までのデータを振り返り、今の成績で将来の「回避」をどの程度予測できるのかについて述べます。

2) 20 年以上の長期に亘ってeGFR が保たれている人

図 1に示すはじめの人は男性で、1992年より取手協同病院に通院し、現在もeGFR27前後が保たれています。現在78歳でCGNです。尿蛋白は0.5g/日前後、血圧コントロールは良好です。食事は蛋白0.8g/kg、食塩は6.8g/日前後で、食塩摂取量はかならずしも守られていません。グラフにしてみると、eGFRは平坦ではなく、2001年が最大値で以後減少し、2010年より27前後の上下動がみられます。27前後のeGFRが下がらないよう、これから注意して治療する必要があります。

21年、20年のeGFRの経過を眺めると結構大きく変化していることがわかりました。この変化は1年や2年の経過観察ではわかりません。今後長期治療例については、このようなグラフを作図し、変化を見逃さないようにする必要があります。

次の人は現在 57歳の男性でCGNです(図2)。1993年より東京医科歯科大学の私の外来に通い、2011年より当院に通っています。はじめ某大学病院で高名な医師に診てもらっていました。副腎皮質ステロイドが投与され、副作用が現れていました。私の外来に移ってからステロイド授与量をゆっくり減らし中止とし、代わりにアンジオテンシン変換酵素阻害薬 (ACEI)を処方したどころ、尿蛋白は減り、2009年から現在に至るまでeGFRは18前後に保たれています。血圧はずっとコントロールされ、食事療法もほぼ合格しています。

このお二人は20年以上腎機能が安定しているチャンピオン的存在ですが、これ以外に5年間安
定、10年間安定の人は沢山居ます。

この人達はいつも掲げている「21の進行因子」についてはいつもほぼ合格していますが、それ以外の共通項として誠実であること、温厚であることが挙げられます。しかし人間の性格はそう簡単に変えられるものではなく、温厚でなければ長期ランナーになれないわけではありません。生活面では一家を支えるため、かなりハードな労働を一時期にせよせざるを得なかった人々も居ます。

3) 20年以上通院,透析に至った人

現在76歳の男性で、性格温厚な人です(図3)。1990年から東京医科歯科大学の外来に 通い、クリニック開院とともに当院に通院しています。ずっと、尿蛋白は0.2~0.5g/日と少なく、血圧コントロールは良好、食事もほぼ申し分ありませんでした。しかしどうしても進行を止めることができず、2011年に腹膜透析導入となりました。1989年に腎生検を行い、CGNと診断されていましたが、尿蛋白が0.2gと少ないのに、eGFRは全期間ほぼ同じ速度で低下しているので、進行の原因は初めから間質性腎炎だったとも考えられます。今見直しても残念な思いがします。

次の人は1990年から同じく東京医科歯科大学に通われ、2011年から当院に通っています(図4)。原因はCGN、現在75歳です。2000年頃までeGFRは25以上ありましたが、一時eGFRは4前後に低下し、それが透析導入のきっかけになりました。ところがその後eGFRは回復し、現在6.2で透析を要しないレベルまで達しています。場合によっては今後「透析離脱」も考えられます。進行が「2相性」になった原因はわかりません。

2)CKD治療はうまく行っていたが、他の病で旅立たれた人

      ここに述べるお二人はCKD進行は停止し、先行きも明るいと思われていました。このお二人の経過はいつ、どのような運命が待ち受けているのかわからないことを思わせます。

    はじめの人は2009年よりCGNの診断で取手協同病院 (現 JAとりで総合医療センタ一)の私の外来に通われ、クリニック開院と共に当院に移られました。「停止」の賞状を2回差し上げた人です(図5)。はじめのeGFRは7とかなり保たれ、一時 eGFRは低下しましたが、その後持ち直し 2011年2月には eGFRは18を越える値を示しました。しかし以前からあった悪性リンパ腫が勢を増し柏がんセンターで手厚い治療を 受けましたが、2011年 5月に75歳で他界されました。事業を興され成功、次世代に引き継がれていたのがせめてもの慰めです。

    次は 2010年 6月より当院に通われてい た男性で、CKDは DNです (図6)。初診時の eGFRは15でしたが、よく注意を守る人で、その後 eGFRは17前後とむしろ改善しました。 しかし 2012年 3月に肺がんが発見され、すでに全身に転移しており、2012年 6月に72歳で他界されました。

   この項で述べたお2人は、悪性疾患に冒され、それで亡くなりました。CKD保存療法がうまく行っていただけに大変残念です。しかし死の病にとりつかれたことを運命と考えれば、この人達は「生涯透析を回避した」と言えると思います。

    ところで天寿とは何でしょうか。文字通り「天から授かった寿命」ですが、なんの外力も加わらない「自然死」はないとされています。蝋燭の灯が消えるような、穏やかな死であっても、解剖すると多くの場合肺炎が発見されます。本当の死の原因は感染症であることが多いのです。自然死、老衰死がないとすると、何の外力も加わらない「天寿」はないということになります。

    そうなると「生涯を終える」といっても結局は感染などの何らかの外力が影響して決まった生涯なのです。

    当院に掛かっている人にはすべて、年間の健康チェックを受けられることを勧めています。図7は開院後3年4力月の間に発見されたがんで、46人に上ります。ここにはCKDの人ばかりでなく、糖尿病や高血圧で来られている人も含まれますが、それにしても多く、集計してみてスタッフと共に驚いています。このように大勢発見されたのに死亡が4人と少ないのは、手術などの適切な治療がすぐに行われた為で、発見後携わったJAとりで総合医療センター、柏がんセンターをはじめとする多くの医療機関のスタッフに感謝いたします。

    「生涯」というからには、その生涯は防ぐことができる病を発見してのものでなければなりません。全身のチェックを怠って、延ばし得る寿命を短くしての「生涯」では意味がないのです。

5)CKD進行速度はかならすしも一定でない-その理由は

    半年以上当院に通院している人の中から昨年 15人の人達が透析に導入されました。そのことは大変残念で反省すべき点もいくつもあり、1例ごとにチェックし、今後の改良を考えています。来院時のeGFRは7~10が5人、6~7が3人と来院時に既に高度の腎不全を呈していた人が半数以上を占め、来院時eGFRが10以上であった他の7人は高度の蛋白尿がどうしても減らない、血圧がどうしても下がらない、などの悪条件がありました。

     この15 人のeGFRの下がり方をみると、はじめから終わりまで一定の速度で低下した人と、途中
から進行速度が急勾配になった人が居ることがわかりました。各々の典型例を図8 、図9に示します。 前者を「1相性の減少」、後者を「2相性の減少」とすると、1相性8人(53.3%)、2相性7人(46.7%)となります(表1)

    1相性ははじめから終わりまで、ある進行原因をとり除けなかった為と推測されますが、2相性となる理由は何でしょうか。進行が急になった時点で血圧が急に上昇したとか蛋白尿が増えたなどの現象は一切生じていません。

    私はこれを、腎臓内で新たな進行原因が加わった為ではないかと考えます。その進行原因とは「間質炎」ではないかと想像されます。間質炎については126号(前号)で腎臓の組織の写真を示し、説明しました。おそらくある時点からこの間質炎が図10のように勢いを増した結果、2相性になるのではと考えます。

6) 「停止」またほ「寛解」の人は、生涯に亘って透析を回避できる可能性が高い!

    現在 1年間eGFRの低下がなく 、停止状態にある人、およびeGFRが改善し、寛解状態にある人の割合(停止・寛解率)は、慣性系球体腎炎で77%、糖尿病性腎症で60%、腎硬化症で88%、多発性のう胞腎で44%に上ります(図11)

   これが1年間だけ停止で、次の1年間は停止でなく進行してしまうことももちろんありますが、その確率はかなり低く、停止であれば次の1年も停止であることが多いのです。

    停止または寛解がみられたとき、励ましの意味をこめて「賞状」をさし上げています(図12)。これは患者さんにとってとても励ましになるとのことで、始めて良かったと思っているのですが、これが既に2枚~3枚と増えている人が居ます。全通っている人達があと何年生きられるかは誰にもわかりません。しかし亡くなった時はじめて生涯の回避がわかる、というのではいかにも遅過ぎます。少なくとも一歩一歩その方向に向かっていることは、賞状を重ねる人が増えて行くことでわかります。

7) まとめ

    「停止・寛解」率は次第に上昇しています。CKD進行のメカニズムは少しずつわかってきています。多くの人の将来は明るいのです。

    病気の腎臓はがんのような異物ではありません。がんならとり除けば良いのですが病気の腎臓といえども頑張って精一杯働いている人事な臓器です。腎臓を労わり、「共に生きる」気持ちを持って下さい。

    CKD保存療法が透析大国・移植小国の日本が目ざす「第3の道」として、日本のみならず世界が認めるよう、皆さんも治療に専念してください。